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化学物質過敏症(2)「子ども甘やかし」誤解も
化学物質過敏症は、食品や空気中の化学物質が体内に蓄積し、許容量を超えた時に発症すると考えられている。
許容量をコップ、化学物質を水に例えると、注ぎ続けた水がコップからあふれた時が「発症」になる。
コップの大きさは人それぞれで、小さい人は幼少期に症状が表れることもある。
近畿地方の男児(7)は、1歳の時に食物アレルギーと分かった。
ナッツ類や乳製品、タマゴなどを口にすると、体中に発疹が出たり、息苦しさに襲われたりした。
ゴム製品に長く触れると肌がかぶれたり、香水や柔軟剤などのにおいを放つ人のそばにいると、顔がのぼせたように赤くなったりする症状も表れてきた。
今夏、その症状が強まり、腹部や背中まで真っ赤に腫れた。
「赤くなった部分は、シャワーを当てただけで痛い痛いと泣き叫ぶほどでした」と母親は振り返る。
アレルギー専門クリニックで、血液などの通常の検査に加え、対象物を目でスムーズに追えるか、片足立ちで体を支えられるか、なども調べた。
化学物質過敏症では眼球運動や平衡感覚の異常など神経症状が表れるとされる。
国の研究班が作った化学物質過敏症の検査法で、男児は目の動きが滑らかでないなどの特徴が見られ、この病気の疑いがあることが分かった。
症状悪化を食い止め、回復につなげるには、農薬や添加物を極力含まない食事を続けると共に、学校の環境を変える必要があった。
給食の問題は、弁当を毎日持たせることで対応できる。
だが、教師や児童の家庭に「柔軟剤などの使用を控えてほしい」と要請することにはためらいがあった。
「各家庭の生活習慣に文句をつけるようで、おかしな親子だと思われるのではないか」。
実際、整髪料や柔軟剤の使用自粛を教師や保護者に求めたばかりに、親が孤立に追い込まれた例もある。
結局、母親は声を上げられず、特定の化学物質が近くになければ元気に過ごせる男児を、しばらく休ませるしかなかった。
化学物質過敏症の患者調査を続ける早稲田大学招聘研究員の北條祥子さん(生活環境学)は指摘する。
「子どもの食物アレルギーも以前は周囲に信じてもらえず、『甘やかし過ぎ』と母親が非難されることが多かった。化学物質過敏症は、今もそんな状況にある」
男児は来年、この病気の子どもを複数受け入れる山間部の小学校に転校することになった。
母親がやっと見つけた一時避難先だった。
「この病気の子どもは多いのに、対応できる教育施設がほとんどない。国や自治体は早急に対策を考えてほしい」と母親は訴える。
(2013年12月11日 読売新聞)