その5:第8部:化学物質過敏症に関する情報収集、解析調査報告書 | 化学物質過敏症 runのブログ

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5 東京地裁八王子支判平成17 年3 月16 日労働判例893 号65 頁(ジャムコ立川工場事件)
[事実の概要]
Xは、平成2 年(1990 年)10 月にYに入社して以降、平成7 年(1995 年)7 月ころまで、Yの工場の試験室でギャレー(航空機内の厨房)に使用する材料(航空機内装品)の試験片の燃焼試験業務に従事していたが、煙による咳き込み、灰色の痰、頭痛、吐き気、息苦しさ、動悸、めまい、視力低下、血痰等の症状が次第に出現し、悪化していった。

その後、Xは、試験担当からはずれたものの、平成7 年10 月、咳き込みによる呼吸困難で倒れ、さらに、同年12 月、ギャレー組立部門に配置転換された当日も倒れ、平成8 年には、気管支炎、血痰、血管造生との診断、その後、別の病院で慢性気管支炎、化学物質過敏症との診断を受けた(さらに、その後、中枢神経機能障害との診断もされている)。
Xは、Yに対し、労働環境の改善をしなかった等のYの過失により、慢性気管支炎、化学物質過敏症に罹患したと主張して、労働契約上の安全配慮義務および不法行為に基づく損害賠償を請求した(なお、Xは、その後に別の理由によりYを懲戒解雇されていて、この解雇が濫用に当たるかどうかも争点となっているが、これについては省略)。

[判旨]
本判決は、厚生省長期慢性疾患研究事業アレルギー研究班の「化学物質過敏症の診断基準」に照らすと、Xの症状は化学物質過敏症とはいえないが、慢性気管支炎および中枢神経機能障害等と認めるのが相当であるとした。

そのうえで、Xのこれらの症状と燃焼試験業務との間に因果関係があるとした。

そして、Yの帰責性についても、YにはXの症状発生を予見し、これを回避する義務があったところ、本件において、結果発生の予見および回避が不可能であったとは到底言えないとして、この点に関するXの請求を(一部)認容した。

このうち、予見可能性を肯定するに至った判決の考え方は、こうである。
「燃焼試験は、多種類の化学物質の複合素材で構成されるギャレー等を新規に製造して飛行機に搭載する前に、燃焼させて安全性を確認するためのものであるから、そのような燃焼試験の性質上、どのようなガスが、どれくらい発生するのか、事前に確定的に分かっているものではなく、少なくとも、ガス分析試験の項目にある、シアン化水素、一酸化炭素、窒素酸化物、二酸化硫黄、フッ化水素、塩化水素が発生するおそれがあったものと認めるのが相当であり、実際に、平成9 年の時点で、燃焼試験により、管理濃度・許容量を超えた量のコールタール、粉塵量、硫酸イオン、管理濃度・許容範囲内ではあるが、相当量の、シアン化合物(シアン化水素)、弗化物(弗化水素)、塩素イオン、フェノール、一酸化炭素、ほとんど問題にならないレベルであるが、臭化イオン(臭化メチルも含む)有機溶剤などが発生していたことが認められる。

そして、…燃焼試験で発生していたと認められる化学物質及びガス分析試験の項目にある化学物質は、人の皮膚、目、鼻、口を刺激し、吸収されることによって、人に対し、倦怠感、疲労感、頭重、頭痛、不眠、めまい、歩行の乱れ、不快感、吐き気、胃腸障害、まぶしさ、耳鳴り、発汗、四肢痛、物忘れ、嗅覚の麻痺、鼻咽頭炎、呼吸障害、気管支炎、気管支肺炎、結膜炎等をおこす危険性があるものと認められる。」
「燃焼試験は、多種類の化学物質の複合素材で構成されるギャレーについて行われるものであり、前提事実、弁論の全趣旨によれば、Yは、平成2 年当時から、燃焼試験前に、使用する試験片の材質について、認識していたと認められる。
そして、多種類の化学物質の複合素材で構成されるギャレーを燃焼した排気ガス中には、有毒な化学物質が複数含まれている可能性が高いこと、人がそのような化学物質に暴露すれば、慢性気管支炎、中枢神経機能障害、その他Xが発症したような症状等の健康被害を生ずる可能性があることは、通常人であれば、当然に認識しうるものと認められる。
そうすると、平成2 年の時点において、Yには、燃焼試験業務において発生する排気ガス中には複数の有毒な化学物質が含まれている可能性が高く、上記排気ガスに人が暴露すれば、慢性気管支炎、中枢神経機能障害、その他Xが発症したと認められる症状等の健康被害を生じうることについて、予見可能性があったことは明らかである。」