6)環境省
環境省にあっては、化学物質対策として、化学物質の環境リスク低減対策、化学物質環境実態調査、化学物質の環境リスク評価や知見の充実、リスクコミュニケーションの推進、国際的な化学物質管理への協力などに取り組んでおり、また、環境保健対策として、環境保健サーベイランス調査、「そら(SORA)プロジェクト」(自動車排出ガス調査)、環境保健に関する調査研究などに取り組んでいる。
以下に化学物質過敏症等に関連すると考えられる各対策について概説する。
①化学物質の環境リスク低減対策
環境省では、第一次環境基本計画(平成6 年)より、化学物質の環境リスク(環境を通じて人や生態系に悪影響を及ぼす可能性)という概念を打ち出し、その低減対策として、化審法、化管法、大気汚染防止法などの法規制による対策及び事業者の自主的な化学物質管理の改善へ向けた基盤整備などに取り組んでいる。
大気汚染防止法では、有害大気汚染モニタリング調査(「4.2(2)大気中の化学物質濃度」参照)に加えて、光化学オキシダント対策として、平成16 年5 月の同法改正により、揮発性有機化合物(以下VOC と略す)の排出規制が平成18 年4 月より始まっている。
「揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制制度の概要」(環境省ホームページ“揮発性有機化合物(VOC)対策”)によれば、光化学オキシダントの生成原因のひとつとされるVOC について、同法改正により、工場等の固定発生源からのVOC 排出総量を平成12 年度比で平成22 年度までに3 割程度抑制することを目標としている。
このため、VOC 排出施設の設置また構造変更の際の届け出及び排出濃度の測定・記録の義務づけ、VOC 排出基準(表-4.3.4 参照)の設定、排出基準に適合しなかった事業者に対する改善命令及び罰則が、同法改正により規定されることとなった。
②化学物質環境実態調査
一般環境中における有害化学物質の残留状況を把握するため、平成9 年~16 年度の調査で33 物質についての大気中濃度を調査している(「4.2(2)大気中の化学物質濃度」参照)。
なお、平成18 年度以降については、目的、調査媒体、要求感度から、「初期環境調査」「詳細環境調査」「曝露量調査」「モニタリング調査」「ヒト生体試料調査」及び「曝露量推計支援事業」に分類して実施することとする(環境省報道発表資料「化学物質環境実態調査の進捗状況について」平成18 年3 月3 日)、としている。
③化学物質の環境リスク評価及び知見の充実
環境省では、化学物質についての定量的な評価を行い、その結果に基づき適切な環境リスクの低減対策を進めるという趣旨から、平成9 年度より化学物質の環境リスク初期評価に着手し、平成18 年度までに5 巻をとりまとめている。以下、その概要について、「化学物質の環境リスク初期評価の結果について」(環境省ホームページ:保健・化学物質対策“化学物質の環境リスク初期評価関連”参照)の平成9~12 年度パイロット事業及び第2 次~第5 次とりまとめ結果より抜粋して示す。
化学物質の環境リスク評価とは、評価対象とする化学物質について、
[1] 人の健康及び生態系に対する有害性を特定し、用量(濃度)-反応(影響)関係を整理する「有害性評価」、
[2] 人及び生態系に対する化学物質の環境経由のばく露量を見積もる「ばく露評価」を行い、
[3] 両者の結果を考慮することによってリスクの程度を判定するものである
としている。
この観点から、多数の化学物質の中から相対的に環境リスクが高そうな物質をスクリーニングするための初期評価として、健康リスク及び生態リスクにわたる「環境リスク初期評価」を実施している。この初期評価において、環境リスクが高い物質を誤って見過ごしてしまう危険性を可能な限り小さくするため、有害性評価ではより感受性の高い知見を利用したり、ばく露評価では検出最大濃度を利用するなどにより、安全サイドにたったリスク評価を行っている。
このうち、「環境リスク初期評価」については、有害性の知見や曝露評価により、
A:相対的にリスクが高い可能性があり「詳細な評価を行う候補」
B:リスクはAより低いと考えられるが「関連情報の収集が必要」
C:相対的にリスクは低いと考えられ「更なる作業を必要としない」
D:得られた情報では「リスクの判定ができない」
の4区分により評価を行っている。表-4.3.17 には、区分A 及び区分B とされた物質の一覧を示したが、この中には、厚生労働省が化学物質の室内濃度指針値を示した13 物質のうち、区分A には、アセトアルデヒド、p-ジクロロベンゼン、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、ホルムアルデヒドの4 物質が、また、区分B には、キシレン及びトレエンが含まれている。
表-4.3.17 化学物質の環境リスク初期評価結果(区分A 及び区分B)
資料:「化学物質の環境リスク初期評価の結果について」平成9~12 年度パイロット事業及び第2 次~第5 次とりまとめ結果(環境省ホームページ>保健・化学物質対策“化学物質の環境リスク初期評価関連”)