・出展:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
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・NEWS LETTER Vol.80
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医薬品や生活関連物質等による環境汚染について
熊本大学大学院自然科学研究科 中田 晴彦
カフェイン・ニコチン・アスピリン等の薬物活性を有する天然の化学物質が、下水処理場から水環境中へ放出されていることは、30年以上も前から知られていた。
しかし、人工的に合成された医薬品類や生活関連物質を「PPCPs(Pharmaceuticals and Personal CareProducts)」と定義し、その環境負荷や汚染リスクに注目が集まるようになったのは比較的最近のことである。本稿では、最近10年余りに明らかになったPPCP汚染に関する科学的知見と、今後この問題にどのように向き合えば良いかを紹介したい。
1999年、Daughton and Terns1)は、PPCPsの排出源とその存在(Source and Occurrence)、環境運命(Environmental fate)、暴露(Exposure)、影響(Effect)、リスク評価(Risk assessment)に関する情報を整理した。
下水処理場に由来するPPCPsを13のカテゴリーに分け、それぞれ該当する物質名や物性等を具体的かつ分かりやすく解説した。
2000年3月、サンフランシスコで行われた第219回米国化学会年会では、「Pharmaceuticalsin the Environment」というシンポジウムが開かれ、その内容は一冊の本2)にまとめられた。
2002年には、米国地質調査所(USGS)のグループが、米国内30州の139地点から採取した河川水を分析したところ、その約8割の試料から82種類のPPCPsが検出されたことを報告した3)。
PPCPsによる米国の広域汚染の現状を明らかにした初期の報告であり、これらが排水の処理過程で完全に分解・除去されず、水環境中に比較的高濃度で存在することが示された。加えて、多くのPPCPsに基準値が設けられていないこと、医薬品の複合的な暴露影響や代謝物の潜在リスクが不明なことにも触れ、今後の調査継続の重要性を指摘した。
2013年4月末時点の本論文の引用回数は2,600回を超えており(SCOPUS調べ)、PPCPsの環境研究におけるマイルストーン的存在になっている。
日本では、下水処理場の原水と処理水を分析し、PPCPsの濃度値と分解・除去に関する報告がある。
2001~2003年にかけて、Nakada et al.4)は都内5カ所の排水施設で採取した原水と二次処理水を分析したところ、その多くから医薬品類が検出された。
原水からは、アスピリン(鎮痛薬)、イブプロフェン(鎮痛薬)、クロタミトン(抗鬱剤)、トリクロサンが高い濃度で検出されたが、欧米の値に比べて概ね1ケタ程度低値であった。
また、処理水においてアスピリンとイブプロフェンの濃度が顕著に減少する一方、クロタミトンは高値を示し、排水処理による分解除去率が物質により大きく異なる様子が示された。PPCPsの中には水オクタノール分配係数が高く、水生生物に比較的高い濃度で残留するものもあり、一部の人工香料では野生高等動物から検出されるものもある5)。
水生生物へのPPCPsの影響を調べた研究も数多く報告されている。
一般には、PEC/PNEC比(予想環境濃度を予想無影響濃度で除した値)による環境リスク評価法が採用され、その値が1を超える抗菌剤のトリクロサン6)や、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤のBP-3は、とくに監視を要するPPCPsであるといえよう。
昨年9月、米国・国立環境健康科学研究所(NIEHS:National Institute of Environmental Health Sciences)の機関誌である「Environmental Health Perspective」誌に、今後PPCPsによる汚染問題を解決するための課題を「The Top 20 Questions」としてまとめた論文が公表された7)。
その一部を以下に紹介する。
1)調査研究すべきPPCPsの優先順位をどのようにつけるか。
2)PPCPsの環境暴露が耐性菌産生に繋がる恐れはあるか。
3)PPCPsによる生態毒性学的応答(エンドポイント)をなにに置くか。
4)PPCPsによる低濃度、慢性暴露をどう評価するか。
5)食物連鎖を介したイオン性PPCPsの生物蓄積をどのように理解するか。
6)PPCPsの生体内代謝物および変換体の環境リスクをどう評価するか。
同論文には、各課題に対するアプローチの方策も示されており、今後のPPCPs研究の方向性を見定める上で重要な示唆を与えてくれている。
1) Daughton and Ternes: Environ. Health Perspect, 107,907-938 (1999).
2) Daughton, C. G. Overarching issues and overview,Pharmaceuticals and personal care products in the
environment. Oxford University Press. (2001), ISBN: 0-8412-3739-5.
3) Kolpin et al., Environ. Sci. Technol. Sci. 36, 1202-1211(2002).
4) Nakada et al., Wat. Res. 40, 3297-3303 (2006).
5) Nakata et al., Environ. Sci. Technol., 41, 2216-2222. (2007).
6)Tamura et al., J. Appl. Toxicol. in press, (2013)
7) Boxall et al., Environ. Health Perspect. 120, 1221-1229(2012).
runより:市販薬に使われている物質が多い事を考えると廃棄物っぽいですね。