Ⅱ.脳神経系を標的としてきた農薬
日本では、第二次大戦後DDT など有機塩素系殺虫剤(標的は電位依存性Na チャネル)が使われ始め、合成農薬の本格的な使用が始まった。有機塩素系は病害虫以外にも毒性が強く難分解・蓄積性で環境汚染が問題となり、1970年頃国内外で殆どが使用禁止となったが、未だに地球レベルで汚染が続いている。
種類によっては遺伝子発現に異常を起こす他、内分泌撹乱作用やエピジェネティクな影響も報告されている。
代わって開発された有機リン系農薬はACh 分解酵素(AChE)阻害剤で、種類・生産量とも現行で最も多いが、ヒトへの毒性も指摘されている。
有機リン系の代替として開発されたのがネオニコチノイド系で、世界中で使用量が急増している。
その他、除虫菊の殺虫成分に近く残留性の高いピレスロイド系(電位依存性Na チャネル阻害)やカーバメイト系(AChE 阻害)なども、脳神経系を標的としている。
他にも使用量の多い殺虫剤フィプロニルは抑制性神経伝達物質GABA 受容体のアンタゴニスト、除草剤グリホサートは抑制性神経伝達物質グリシンの有機リン化合物、グルホシネートは興奮性神経伝達物質グルタミン酸の有機リン化合物と、神経系が標的となる多様な農薬が使われている。
また、以前の農薬は非浸透性で農産物の表面にとどまり洗えば大部分とれたが、最近は水溶性で種子内部に浸透し成長後も殺虫効果が持続する浸透性農薬が増え、これらは果菜内部に浸透すると洗い落とせず残留するため、問題となっている。
ネオニコチノイド系や、フィプロニル、有機リン系の一部(アセフェートなど)は浸透性農薬で、河川など水系への影響も懸念されている。