・http://www.asahikawa-med.ac.jp/dept/mc/healthy/jsce/jjce21_1_46.pdf
「第20回日本臨床環境医学会学術集会特集」
総説
別刷請求宛先:木村-黒田純子
〒156-8506 世田谷区上北沢2-1-6 東京都医学総合研究所 脳発達・神経再生研究分野、神経再生研究室
Reprint Requests to Junko Kimura-kuroda, Department of Brain Development and Neural Regeneration, Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science, 2-1-
6, Kamikitazawa Setagaya-ku, Tokyo 156-8506, Japan
新農薬ネオニコチノイド系農薬のヒト・哺乳類への影響
木村-黒田純子 小牟田 縁 川 野 仁
東京都医学総合研究所 脳発達・神経再生研究分野、神経再生研究室
要約
ネオニコチノイド系農薬は、害虫には毒性が高いがヒトには安全であるとされ、世界中で使用量が急増している。
ネオニコチノイドはニコチン類似構造を持ち、昆虫では神経伝達物質アセチルコリン(ACh)の受容体であるニコチン性ACh 受容体(nAChR)に強いアゴニスト作用をもつが、哺乳類への影響は十分調べられていない。
哺乳類のnAChR は自律神経、末梢神経で主要なだけでなく、中枢神経系や免疫系でも多様な作用を持ち、特に発達期の脳における重要な働きが分かってきた。
最近ネオニコチノイドが哺乳類にも影響を及ぼす研究報告が出てきている。
我々は、ネオニコチノイドが、発達期のラット培養神経細胞にnAChR を介して、ニコチン同様に1μM の低濃度から興奮性反応を起こすことを明らかにした。
ニコチンはヒトへの毒性、特に子どもの発達への悪影響が分かってきており、ネオニコチノイドによる子どもの脳の発達への影響が懸念される。
Ⅰ.緒言
安定な農作物確保のため、農薬の果たしてきた役割は大きいが、その毒性は病害虫や雑草に特異的ではなく、ヒトや生態系に予想外の影響をもたらした歴史がある。
有機塩素系農薬は深刻な環境汚染を起こし、次に開発された有機リン系農薬もヒトへの毒性が問題になり、1990年代以降、より安全とされているネオニコチノイド系農薬の使用量が急増している。
現行の農薬の毒性試験には、脳高次機能発達への影響、エピジェネティクな変異や多種類の農薬の複合的影響、内分泌機能の撹乱など新しい知見の項目は入っておらず、安全性が十分とはいえない。
ネオニコチノイドは、昆虫では神経伝達物質アセチルコリン(ACh)の受容体であるニコチン性ACh 受容体(nAChR)に強いアゴニスト作用をもつニコチン類似物質であるが、ニコチンで報告されているヒトの健康への影響、特に子どもへの影響がどれだけあるかは十分調べられていない。
またネオニコチノイド系農薬はミツバチ大量死の関連で現在注目されており、生態系への影響の検証も必要である(詳細は後述)。
ヒトのnAChR は、末梢神経や自律神経系だけでなく脳の高次機能、免疫系に至るまで多様な機能を持ち、特に子どもの脳の発達において重要な働きをしていることが明らかとなっている。
本稿では、最近の研究か分かってきたネオニコチノイド系農薬のヒト・哺乳類への影響について、特に発達期の脳に焦点を当てて考察する。