d. 排泄
男性ボランティア 5 人にTDI を吸入暴露し、TDI の排泄が調べられた。
被験者は、2,4-TDIと2,6-TDI の混合比がおよそ1:1 のTDI 蒸気36~43μg/m3 を換気した小部屋内で7.5 時間全身暴露された。
暴露開始から28.5 時間まで定期的に採尿し、試料を塩酸中で酸加水分解した後、2,4-TDA または2,6-TDA として定量分析した。
尿中2,4-TDA 平均濃度は、暴露終了時点で最大の5μg/L、2,6-TDA 平均濃度は、8.6μg/L となり、24 時間以降では、それぞれ、微量であった。
2,4-TDA の尿中排泄速度は、暴露中に増加し、終了時点で最大の0.6μg/時間となり、その後、減少し、半減期1.9 時間と5 時間の二相性を示した。2,6-TDA の尿中排泄速度は、暴露終了時点で最大の1.0μg/時間となり、その後、減少し、半減期1.6 時間と5 時間の二相性を示した。
28 時間までに尿中に排泄された2,4-TDA または2,6-TDI の合計量は、それぞれ、吸入経路で吸収した推定合計量の8~14%、14~18%に相当した。この実験では、試料を酸加水分解して定量分析しているため、尿中のTDAがTDA自体かTDA抱合体かは不明である (Skarping et al., 1991)。
軟質ウレタンフォーム製造の2 工場で、作業中にTDI に暴露された労働者11 人の尿を採集し、酸加水分解した後、2,4-TDA、2,6-TDA の定量分析を行った。
2 つの製造工場におけるTDIの空気中測定濃度は、それぞれ、0.4~4μg/m3、10~120μg/m3 であった。
4~5 週間の長期休暇中の測定結果から、2,4-TDA 及び2,6-TDA の尿中排泄速度はそれぞれ0.04~0.54μg/時及び0.18~0.76μg/時であった。
また、尿中の半減期は、2,4-TDA では5.8~11 日間、2,6-TDA では6.4~
9.3 日間であった。
この測定結果が示す長期に暴露された労働者の尿中TDA の遅い排泄結果と、上述のTDI を短時間暴露したボランティア実験が示した尿中排泄の半減期が2~5 時間の速い尿中排泄結果 (Skarping et al., 1991) とから、著者らは、速い排泄は最近のTDI 暴露に由来し、遅い排泄は長期暴露中に体内に分布したTDI 付加体の尿中排泄に由来しているだろうと考察している (Lind et al., 1996)。
TDI (2,4-TDI:2,6-TDI 混合比, 80:20) を原料として用いたスウェーデンのウレタンフォーム製造工場の製造業務労働者4 人とボランティア1 人からTDI の排泄が調べられた。
工場内のTDI の平均空気中濃度は29.8μg/m3 であり、最大濃度は3,000μg/m3 であった。
3 日間の勤務後の被験者から尿が採集され、採集した試料を酸加水分解し、遊離した2,4-TDA と2,6-TDA が定量分析された。
4 人の尿中のTDA 濃度は暴露終了直後に最大であった (Tinnerberg et al., 1997)。
雄の F344 ラット (200 g、3~4 匹) に[環-14C]2,4-TDI を経口投与または吸入暴露して、投与経路による2,4-TDI の排泄が比較された。
ラットに[14C]2,4-TDI 60 mg/kg を経口投与し、48 時間以内の放射能の排泄を調べたところ、糞、尿、体内中に投与放射能の81%、8%、4%が検出された。
一方、[14C]2,4-TDI の蒸気 2 ppm (14.4 mg/m3) を4 時間吸入暴露し、投与48 時間以内の排泄を調べると、糞、尿、体内中に投与放射能の47%、15%、34%が回収された。
しかし、呼気中には放射能は検出されなかった。放射能の尿中排泄の半減期は、経口経路では7.5 時間、吸入経路では20 時間であった。
経口投与された2,4-TDI の大部分は消化管中でポリウレアを形成して、ほとんど吸収されることはないと、著者らは考察している (Timchalk et al., 1994)。
以上から、TDI は生体中の水に溶解すると、濃度が低い場合には、トルエンジアミンになりやすいが、濃度が高い場合には、オリゴウレア、ポリウレアになりやすい。
気道においてはTDIの付加体形成が主な反応である。
TDI は、ヒトでは吸入経路を介して体内吸収された後、血漿中及び尿中にTDA あるいはTDA 抱合体として代謝・排泄される。
TDA の血漿中濃度は暴露終了後24 時間で最大となり、その後減少する。
減少の半減期は10~21 日間である。
尿中の半減期は、2,4-TDA では5.8~11 日間、2,6-TDA では6.4~9.3 日間である。
しかし、血漿及び尿中のTDA がTDA 自体であるか、あるいは抱合体であるかの分子形態は、定量分析のために酸加水分解処理をしているので、不明である。
TDI は経口と吸入経路によって異なる運命を辿ることが、実験動物のラットで調べられている。
経口経路では、TDI は投与後48 時間で大部分がポリウレアとして糞中に排泄される。
一方、加水分解して生じたTDA は、アセチル化体、酸分解性抱合体に代謝され、尿中にアセチル化体及び抱合体として排泄される。
尿中排泄の半減期は、7.5 時間である。
吸入経路では、TDIは速やかに吸収され、各器官に分布する。
血中では、血清タンパク質に付加結合し、TDI は少なくとも一つのイソシアナート基を保ったまま、肺、血中、赤血球膜を通過してヘモグロビン分子に到達して、ヘモグロビンと付加体を形成し、48 時間後もかなりの割合で存在する。
TDIは、体内で酸分解性の抱合体に代謝されて、抱合体として尿中に排泄される。尿中排泄の半減期は20 時間である。
ニトロソ化合物の付加体が検出されたことから、生体内でトルエンジアミン (TDA) が形成されることを示唆しているが、遊離のTDA の排泄は殆どない。
また、吸入されたTDI の一部は食道を経て、胃に到達し、タンパク質と付加体を形成する一方、低分子と抱合体を形成して、糞中に排泄される。
runより:吸入経路では、TDIは速やかに吸収され、各器官に分布するという部分に愕然としますが一応尿から排出されてますね。
排泄される時にも化学物質は悪さすると経験しているのでこういう資料は結構大事です。
ここまでで半分程ですが続きは明日にします。