[4]シックハウス症候群の疾患概念に関する臨床的・基礎医学的研究
本研究では、我が国におけるシックハウス症候群の発症機序、病態に関する研究を進めながら、シックハウス症候群についての疾患の概念に対する統一見解をまとめ、その予防・治療法の開発に貢献することを目的として、平成15~17年度にわたり、患者(化学物質過敏症等の患者を含む)へのアンケート、動物実験などによる研究・検討が進められた。
この結果をまとめた「シックハウス症候群の疾患概念に関する臨床的・基礎医学的研究平成15 年度~17 年度 総合研究報告書」(平成18 年3 月、鳥居新平:主任研究者)によれば、3 年間にわたる質問調査票の病歴・症状・臨床的診断名の統計的解析から、シックハウス症候群の共通概念としての特徴を統計的に明らかにすることができ、現時点で臨床診断に役立つ診断基準とその症状の特徴や悪化すると思われる化学物質を明らかにすることができた。
しかし、MCS についての一定概念を引き出すことはできなかった、としている。
本研究において示された、シックハウス症候群として判断する条件は、以下の3 項目を全て満たす場合となっている。
Ⅰ 症状のきっかけが転居、建物の増築、広範な改築によること、
Ⅱ 自宅内の特定の部屋、新築や改築後の建物内で症状が出現し、
Ⅲ 問題になった場所や状況に出会うと症状が10 回中5 回以上出現する
こと
また、質問調査票の解析結果からは、シックハウス症候群の症状としては、
MCS の症状より頻度が高いものとして、感覚刺激症状6 項目(眼がチカチカ、眼の乾き、のどのつかえ、声のかすれ、皮膚のかゆみ、息がしにくい)と全身症状6 項目(体が冷える、何事もおっくう、脱力感、吐き気や嘔吐、下痢、味がわかりにくい)が抽出された。
さらに、発症前の生活習慣との関連では、食生活との関連は認められなかったが、喫煙習慣・飲酒習慣・運動習慣については、シックハウス症候群発症者では、有意に少ない結果を示し、運動習慣は自律神経症状の改善効果もあるので、症状改善に役立つものと思われる、としている。
動物モデルからの検討では、ラットの皮膚にホルムアルデヒドなどの化学物質を塗布する実験により、知覚神経の過剰分布や過剰反応を抑えるタクロリムス(免疫抑制剤の一種)がVOC(揮発性化学物質)による神経原性炎症(神経末端で神経伝達物質の放出により引き起こされる炎症)を抑制したことから、VOCが知覚神経過敏と過剰分布を誘導し、シックハウス症候群の病態形成に一定の役割を果たしている可能性が指摘されている。
この他、シックビルディング症候群の原因物質として注目されてきたエンドト
キシン(内毒素:細胞壁の成分であり、致死性ショック、発熱、白血球の活性化などを導き出す)の室内濃度を、シックハウス症候群や喘息患者の居宅で測定したが、統計的に有意な結論は得られなかったことや、揮発性有機化合物(ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン)の曝露実験では、「化学物質に過敏である」と訴えのある患者の63%で、いずれかの物質に対して、厚生労働省指針値の半分以下の濃度で陽性反応が得られた、などの研究成果が示されている。