2)定義
① いわゆる化学物質過敏症に関する定義
化学物質が生体に及ぼす影響については、医学的にはこれまで、中毒とアレルギー(免疫毒性)の2つのしくみがあると考えられてきた。
これに対し、近年、微量化学物質曝露により、従来の毒性学の概念では説明不可能なメカニズムによって生じる健康障害の病態が存在する可能性が指摘されてきた。
このような病態については、様々な概念及び名称が提唱されているものの、国際的には、1987 年にカレン(エール大学内科教授)により提唱された「MCS(Multiple Chemical Sensitivity:多種化学物質過敏状態)」の名称が、また、わが国では石川らが提唱した「化学物質過敏症: CS (ChemicalSensitivity)」の名称が一般に使用されている1)。
MCS に対する見解としては、国際化学物質安全性計画(IPCS:WHO、UNEP、ILOの合同機関)、ドイツ連邦厚生省等の主催によるベルリンワークショップ(1996 年2 月)にあっては、既存の疾病概念では説明不可能な環境不耐性の患者の存在が確認されるが、MCS という用語は因果関係の根拠なくして用いるべきではない、として新たにIEI(Idiopathic Environmental Intolerances:本態性環境非寛容症)という概念が提唱された。
その後、アメリカアレルギー喘息学会やアメリカ産業環境医学協会においても同様の見解が示された1)。
これに対し、1999 年、アメリカの専門医・研究者など34 名は、署名入り合意文書として「コンセンサス1999」を公表して、MCS を以下のとおり定義した1)。
① (化学物質の曝露により)再現性を持って現れる症状を有する
② 慢性疾患である
③ 微量な物質への曝露に反応を示す
④ 原因物質の除去で改善又は治癒する
⑤ 関連性のない多種類の化学物質に反応を示す
⑥ 症状が多くの器官・臓器にわたっている
このように、MCS の病態の存在をめぐって否定的見解と肯定的見解の両方が示されてきた。
なお、ベルリンワークショップは、国際機関やドイツ連邦政府機関の主催により開催されたものであるが、そこで示された見解は必ずしも主催機関の公的見解ではなく、「コンセンサス1999」についても、研究者間の合意事項であり1)、医学的・病理学的な定義は国際的にも確立されるには至っていない。
以上の情報を基に、代表的なMCS の定義を整理した結果を表-4.1.2 に示す。
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1)「室内空気質健康影響研究会報告書~シックハウス症候群に関する医学的知見の整理~」の公表について、平成16 年2 月、厚生労働省報道発表資料