7、MCS患者用に 推奨される診断プログラム
7.1 代謝と栄養 状態(有機酸分析データ)、毒物など
生化学研究において 過去数年で最も盛んな分野は、生化学的疾病の媒介因子の特定と個別化である。
毒物学テストを含む一般的な医療分析に加えて、新たな尿テスト―有機酸分析 (オルガニクス分析データ)- がMCS患者にとっての引き金や媒介因子を突き止めるのに役立つ。
独自に編み出した包 括的オルガニクステスト(特許出願中)は体の細胞代謝の過程と代謝機能の効率性に焦点をあてる。
栄養学的治療が可能な解毒の際の代謝障害や問題、腸内毒素 症、酸化ストレスを特定することで、患者個人に合わせた介入治療が可能となる。
焦点を絞った治療に よって、患者の反応を最大限に高めることで、より効果的な結果が得られるようになる。
MCS患者は、エネ ルギー生産欠乏(ATP;アデノシン三リン酸)をもたらすミトコンドリア障害の兆候を示すことが多い。体は解毒のためにエネルギーの8割を必要とするた め、ミトコンドリア障害は解毒機能の低下と直接的に結び付くことになる。グルタチオンやアルファリポ酸、コエンザイムQ10(ユビキノン)といった物質 は、ミトコンドリアの働きを助けることで、エネルギーレベルを上げて解毒能力を高める。
7.2 重金属毒 性
元素には細胞に蓄積 し毒性効果をもたらすものもある。重金属毒性は環境が健康に及ぼす深刻な懸念である。
鉛やカドミウム、水銀、ヒ素などの毒性負荷は、とりわけ子供の脳や神 経システムに深刻なダメージを与える可能性がある。
毒性成分は様々なメカニズムによって多くの悪影響をもたらす。
そのメカニズムの一 つ、不可逆的酵素阻害は貧血症状として現れるが、これは鉛がヘモグロビン合成過程の酵素と結びつくことで生じる。水銀は酵素中毒症を発症させる。
鉛や水銀 はグルタチオンを減少させ、ビタミンB12(メチルB12)欠乏症を起こす。
ヒ素の発がん作用は DNA修復阻害の結果と考えられる。
染色体が損傷する変異原性は、カドミウムや鉛、ニッケルの活性酸素発生作用に関連している。
栄養成分や毒物成分 は血液や尿、毛髪から測定することが可能である。
毛髪は血液と比べて 数百倍も重金属を蓄積するため、人間や動物の慢性的重金属曝露を検査する際の有効性について定評がある。
なんらかの重金属が毛髪に蓄積されている場合に は、曝露原因の調査が妥当である。
毛髪の重金属レベルが高濃度であることは、他の兆候や症状が出る以前に慢性的な曝露状態にあったことを示していると推測 できる。
もう一つ別の診断方 法としてポルフィリン分析がある。(訳注;ポルフィリンとは、有機化合物の一つで生命の色素ともよばれ、酸素運搬や光合成など生体内の様々な機能にかかわ る。)ポルフィリン分析結果は患者の重金属中毒や有機化学物質の曝露の度合いを特定するのに役立つ。
化学物質曝露や重金属負荷は身体に影響を及ぼし、代謝 や細胞機能の悪化を招く。尿中のポルフィリン測定はまたMCS患者の治療経過観察にも役立つ。
7.3.フタレート とパラベン分析
フタレートとパラベ ン分析は、日用品やプラスチック食べ物容器といった類の使用による日頃の毒物曝露を特定するのに利用することができる。
環境由来の毒物は患者をもとの健康 な状態に戻す「初めの一歩」として測定評価をするべきである。
*なぜフタレートと パラベン蓄積レベルを測定評価するのか?
フタレートとパラベ ンの曝露は思っている以上に頻度が高い。フタレートとパラベンは通常ゼノエストロゲンとして分類され、これは体内でとりわけエストロゲンレセプターと結合 する環境ホルモンとして作用する体内には本来存在しない化合物である。
環境ホルモンに関連 して発症する疾病の例として;
・子宮内膜症
・不妊
・乳癌
・卵巣癌
・前立腺癌
・精巣癌
・精子減少
日常的な曝露と関連 するその他の健康被害の例として;
・肝毒症
・アレルギーや喘息 などの免疫疾患
・生殖毒性
・早熟
*フタレートとパラ ベンの検出源
フタレートは「可塑 剤」とも呼ばれ日常使用する多くのものから検出される。
・子供向け玩具
・化粧品
・清掃用品
・芳香剤
・香水
・家具
・塩化ビニルの床
・プラスチック製食 べ物容器
・医療製品
フタル酸ジエチルヘ キシル(DEHP)はポリ塩化ビニルの一般的な添加物である。この添加物は、ポリ塩化ビニルをデザイン性のある形になるよう柔らかく曲げやすくする働きをする。
ポリ塩化ビニル製品はプラスチックコード「3」に分類される。
香水や芳香剤において、フタレートは「香料」と表記されていることが多い。
7.4.隠れた食物 アレルギー
IgG4抗体は様々 な健康障害をもたらす非アレルギー性、すなわち血管運動性あるいは遅延型食物反応と関連している。
こうした反応は免疫反応を仲介する食物不耐性の一般的な ケースとして考えられている。
実際、食物に対してはIgG4反応のほうが即時型反応をもたらすIgE反応よりも一般的である。
IgG4は抗体の侵入を防ぎ、致命的ともなりかねないIgE反応を個体が起こさないよう守っている。
こうした反応を認識するのは、反応そのものが問題となる食物を摂取してから数時 間後ときには数日たって生じるため、IgE反応を認識するよりも難しい。
場合によっては、食物に対する反応が問題となる食事摂取から数日たって起こるた め、食物と患者の症状を関連付けることができないこともある。
こうした「隠れた」食物アレルギーは、特定の食物に反応してIgG4抗体の血中濃度が上昇す ることによって生じる。
特許出願中のIgG4分析評価はテスト結果の誤検知を減らしより患者に即した治療へとつながる。
7.5.便および消 化分析評価
新たな便試験では、 かつては腸内環境では測定不可能とされた嫌気性菌を含む微生物群を特定するためにDNA分析評価を用いる。
DNA分析評価は明確かつ正確で、検体移動の問 題を避け、結果を明確な数字で表すことができ、従来の実験室手法よりも精密なものである。
便分析評価では1グ ラムあたり少なくとも5つの細胞を検知することができ、これは寄生虫検査を目的とする顕微鏡法と比べて精度が5000倍もあがる。
*なぜ便分析評価を 用いるのか?
胃腸機能は健康全般 において欠かすことができない。腸管系には有益・無作用・有害といった様々な種類の細菌が相当な数存在している。腸内での有益な微生物群のバランスをとる ことが健全な消化、効果的な栄養摂取、それに老廃物や病原菌を体外に排出するにあたっての鍵となる。消化不良や吸収不良は、免疫不全や栄養失調、精神障害 や情緒障害、それに自己免疫疾患につながりかねない。