・出典:NPO法人 神奈川労災職業病センター
http://koshc.org/?page_id=15
・2010/06/23
化学物質過敏症患者のTさんが裁判提訴!
(2010年06月23日)
5月26日、化学物質過敏症患者のTさんが会社の安全配慮義務の責任を求めて横浜地裁に裁判提訴した。
被告企業は日本システム(株)と同社の取引先である(株)カナメックスで、Tさんが(株)カナメックスの作業場で電気設備の部品作業中に、有機溶剤「タキボンド200」を吸い込んだために化学物質過敏症に罹患したことをもって損害賠償の請求原因としている。
Tさんは、すでに労災の障害11級の認定を受けているので(本誌「かながわ労災職業病」2010年2月号)、損害賠償額は後遺障害11級(労働能力損失率20%)の遺失利益と慰謝料など約1600万円 。
訴状では、被告カナメックスが「原告にタキボンドの有害性を知らせることなく、タキボンドの取り扱いについての注意をなんら与えないまま、その使用を指示し、また、排気装置の使用や換気のない状態で作業を行わせた。」安全配慮義務違反があるとしている。
また、被告日本システムについても「原告に被告カナメックスへの出張作業を命ずるに際しては、有機溶剤について危険性を知らせ、被告カナメックスの作業場での作業内容、作業環境を把握し、タキボンドの取り扱いについての作業上の注意や保護具の使用の措置をとり、自らが実施できないものについては被告カナメックスに対して安全上の措置を求めるべき義務がある。」という安全配慮義務を怠ったとしている。
下請企業の安全配慮義務については「下請企業の労働者が元請企業の管理する設備、工具等を用い、事実上元請企業の指揮、監督を受けて稼動し、その作業内容も元請企業の従業員とほとんど同じであったという事実関係の下では、元請企業の従業員との間に特別な社会的接触の関係に入ったもので、信義則上、労働者に対し安全配慮義務を負う。」とする最高裁判決(平成3年4月11日)がある。
本件についても、カナメックスの作業場で、カナメックスの加工機械や有機溶剤等用いて作業を行い、その際にカナメックスの担当社員から指示を受けて作業に従事していたので、当然、被告カナメックスについても安全配慮すべき義務があったというべきである。
提訴後の記者会見でTさんは「私はこの訴訟で少しでも多くの方々に「化学物質過敏症」の事を知ってもらいたいのと同時に、政府、各省庁、自治体、企業、個人にもこの事態を深刻に受け止め、早急に対応を促したいと考えております。」と訴えている。
多くの化学物質過敏症患者が後遺症状に日々悩まされて社会に向けて声を上げることのできない状況で、Tさんが勇気をもって裁判に立ち上がったことの意義は大きい。
(川本)