・出典:NPO法人 神奈川労災職業病センター
http://koshc.org/?page_id=15
2010/02/22
化学物質過敏症で障害11級の認定!
(2010年02月22日)
取引先の半導体の設計・制作の会社で洗浄装置設備の機内配線作業等に従事し、化学物質過敏症になったTさんに障害11級の労災認定が下りた。
北里研究所病院の主治医である坂部貢医師が、症状固定後に中枢神経機能障害(中枢性眼球運動障害)の後遺障害があると診断したものを、厚木労働基準監督署が「両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの」に相当するとして障害第11級の労災認定をしたものだが、化学物質過敏症の後遺障害を認めた事例としてはおそらく初めてのものであり、注目に値する。
Tさんは、2000年11月より2002年2月の間、取引先のK社で半導体、ガラスマスク等の洗浄装置設備の機内配線作業や、それに伴う加工作業をする際に、頭痛、めまい、吐き気等の体調不良を感じていたが、2002年1月には痙攣が止まらなくなって、自宅近くの茅ヶ崎市立病院で血液検査を行ったが、原因は不明とされた。
その後、同病院から紹介された北里研究所病院で診察、検査を行った結果、中枢神経機能障害、自立神経機能障害、化学物質過敏症との診断を受けた。
そして、さらに同病院で、曝露した化学物質を特定するために、同工場で使用されていた塩化ビニル板の接着に使用する接着剤「タキボンドNo200」の負荷試験を行ったところ、タキボンドに含有される有機溶剤(テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン)負荷により、脳循環血流量の低下が認められ、これらの有害化学物質に過敏に反応することが確認されたのである。
この北里研究所病院・臨床環境医学センター化学物質過敏症特殊外来の試験結果報告書が決め手となって、2003年9月26日付けで労災認定になったものである。
化学物質過敏症に必要な治療費は、検査料を除いて労災の適用にならないため自由診療になった分は会社に負担してもらっていたものの、社長から「もういいだろう。」と言われて治療も中断し、労災の療養費や休業補償費も打ち切りとなってしまった。
しかし、その後も化学物質過敏症の症状は続き、病気が治っていなかった。
その上、さらにうつ病になり、Tさんは昨年11月に会社を退職。このままでは、化学物質過敏症になり、さらにうつ病にまでなった自分の悔しい思いがどうしても晴れない。
なんとか会社に対して、自分の思いをぶつける手立てはないのかとセンターに相談にきたところ、会社に対して損害賠償の裁判で訴えるにしても、先ずは労災の障害申請をしてはどうか?とのアドバイスを受けて、厚木労基署に後遺障害の申請したところ、11級の認定を受けたものである。
Tさんが働いていたN社の就業規則の災害補償規定には、障害の労災上積み補償について「社員が、業務上災害により負傷し、または疾病にかかり治癒したときに身体に傷害が存する場合においては労災法上の定める傷害補償給付の他傷害補償を行う。この場合本給の180日分を100%とする。」とあり、これによって、Tさんは会社に対して労災上積み補償の要求をすることを決断し、現在会社と交渉中である。
化学物質過敏症については、Tさん以外にも労災認定となって事例が少なからずある。
その中で、労災認定後に損害賠償請求裁判を提訴し、「防護マスクやゴーグルの着用を指示するべきだった。」と被告側の安全配慮義務違反認め、後遺障害の逸失利益を含む1063万円の賠償を命じた判決も出ている(「毎日新聞」2006年12月26日付け)。
Tさんの化学物質過敏症についても、取引先であるK社で有機溶剤テトラヒドロフランとメチルエチルケトンを含有している「タキボンド200」を使用しているにもかかわらず、換気装置もないところで呼吸用保護具も着用せずにTさんを働かせていた。
K社の安全管理上の使用者責任はもちろんのこと直接の雇用責任を負うN社が安全配慮義務を怠っていたことも明らかだ。
化学物質過敏症が、昨年10月に健康保険の適用が可能になり、治療を要する疾患として社会的にも認知されてきている中で、Tさんが化学物質過敏症で障害11級の認定を勝ち取った意味は大きい。
(西田)
runより:Tさんの苦労話には共感せざるを得ない(T▽T;)