・病気への感受性が農薬で高められる
この他にも、いくつか重要論文が発表されている。
農薬企業の政府への影響が強いといわれる米国においては、ミツバチコロニーの死亡率がネオニコチノイド農薬によって高まるとする研究発表は、これまで長い間発表されなかった。
しかし、英国のインディペンデント誌は、米国のミツバチ研究の第一人者ペティス(Pettis JS)博士らによる研究内容をいち早く報道し、その論文はヨーロッパの雑誌に公表された。2011年ペティスらは、科学雑(Naturwissenschaften)に、ミツバチはネオニコチノイド農薬に曝露することによって免疫力が低下し、ノゼマ病に感染しやすくなる。
それがミツバチコロニーの死亡率を増加させる主原因であることを発表した。農薬が免疫力を低下させハチの死亡率を高めるとしたこの研究は、これまで度々出されてきた複合原因説や単一原因説から一歩前進し、それら諸要因の相互作用に注目したもので、これによってネオニコチノイド農薬主因説は、説得力を増し動かしがたいものになった。
: アーモンドへのネオニコチノイド使用、バイエル社が撤退(米国カリフォルニア州)
このようにミツバチ大量死の原因解明は進んでいるが、これを規制する施策の対応は遅れている。とくに米国や日本ではネオニコチノイド規制はほとんど進んでいない。
しかし、さすがにネオニコチノイドの危険性を示す科学的証拠の蓄積によって、農薬企業の態度にも少しずつ変化が現れ始めた。
世界を股にかける農薬多国籍企業のバイエル社は、2012年3月、カリフォルニアではアーモンドへのネオニコチノイドの使用から撤退すると表明した。
というのも、カリフォルニア州は連邦政府の動きに先立ち、率先してミツバチ大量死の原因と疑われたイミダクロプリドの再評価を行う決定をし、さらに2009年にはEPA(米国環境保護庁)にも再評価を求め活発に行動していたからである。
こうした動きをバイエル社も無視できなくなったのだろう。
一歩一歩ではあるが、この米国においても、イミダクロプリドの危険性についての認識が共有されはじめている。
: 日本のマスコミは、ようやく重い腰をあげたが
一方、日本では、ミツバチ大量死の原因としてネオニコチノイド農薬問題を論ずることを躊躇していた日本のマスコミであったが、前述のサイエンス論文が今年3月に発表されたのを受けて、ようやくこの農薬問題が取り上げられた。
朝日新聞5月9日付けの記事「農薬からミツバチを守れ」では、ミツバチ大量死の解明が海外ですすみ、農薬主因説が次第に認められつつあることが報じられた。
しかし、それでもなお、日本の専門家のこの記事への反応はお粗末なものである。
農水省の畜産草地研究所の主任研究員のこの紙上でのコメントは、この農薬の使用中止を求めるものではなく、“ハチが農薬を浴びないようにさせる方法を検討中”というものだった。
すでに日本では09年、農薬で死んだと養蜂家が報告したハチの9割以上から、そして、弱ったハチの7割近くからネオニコチノイド農薬が検出されていたのにもかかわらず、この農薬の使用を減らすという議論は専門家から表明されなかった。
そして農水省は現在でも「ネオニコチノイドを散布する時には、ハチを避難させて下さい」という指導を繰り返している。
: 日本からも、ネオニコチノイドの危険性を示す研究発表
日本の研究者のネオニコチノイド農薬に関する研究も注目されている。
脳神経学者の黒田純子氏の論文(2012)は、ネオニコチノイド農薬が哺乳類に対してニコチン様作用を及ぼし、子どもの発達に悪影響を引き起こす可能性を指摘し、また、東京都健康安全センターの田中豊人氏の論文(2012)は、ネオニコチノイド(クロチアニジン)を母体経由で投与した仔マウスに発達異常や行動異常が起こることを示した貴重なものである。
今後、日米両国で、ネオニコチノイド農薬規制の動きが一歩でも前進することが望まれる。