・Ⅶ.ダイオキシン:予防に対する根拠
ダイオキシンはこれまで最も集中的に研究された物質であるが、影響の全範囲はまだ分からない。
増え続けている証拠は、ダイオキシンが人間やほかの生物に有害であることを示しているが、害の絶対的な証拠は確立していない。
米環境保護庁が1990年代初期に開始したダイオキシンの評価と再評価過程は、ダイオキシンの影響に関する不確実性を減そうという、終わりのない試みに見える。
しかし、これはダイオキシン被ばくを中断させないであろう。
そのかわり、ダイオキシン発生源の抑制に関して、どのくらいの量のダイオキシンに人間と生態系が耐えることができるかに関する、多くの議論を招くと思われる。
これは、予防原則を適用する理由と方法の典型的な例である。
まず、予防に関する議論。
害の証拠。ダイオキシンは、研究室での実験で、非常にわずかな量で急性及び慢性的に極度に有毒である。
実験的証拠及びメカニズムの証拠の結果、最も有毒なダイオキシンであるTCDDは、人間に対して発癌性があると、国際癌研究機構によって確認されている。
ダイオキシンは、クロルアクネのような、ほかの様々な影響に関連があり、そして子宮内膜症やほかの病気と関連しているであろう。
悪影響が、非常に低いレベル、現在の「バックグランド」レベル近くで生じるという、証拠がある。
残留性と不可逆的な害。
ダイオキシン汚染の時間と空間スケールは莫大(ばくだい)である。
ダイオキシンは世界中で測定されており、人間と環境中の残留性は、次の世代が現在作り出したダイオキシンに被ばくするだろうということを、意味している。
人間や生態系に対するダイオキシンによって引き起こされる害は、回復しないあるいは回復に数十年かかると思われている。
抑制と浄化の困難性。
少量で有害なため、特に燃焼のような開放発生源からのダイオキシンを、一般人の健康を守る程度にまで、放出を抑制することは、実際には実質的に不可能であり、極度に費用がかかる。完全な浄化も実際には不可能である。
科学的不確実性。ダイオキシン被ばく結果の一つである癌は、明らかになるのに長年を要するので、被ばくと病気を結びつけるのは不可能なことが多い。
ダイオキシン混合物とほかの残留性有機化学やそのほかのストレッサーとの、影響の結びつきは余り分かっていない。
例えば、免疫系に対する影響に、仕事に関連するストレスが、ダイオキシン被ばくとどのように組み合わさるのか?相互作用に関する一部の実験証拠があるが、相互作用を証明するのは極度に困難である。
予防は可能である。
ダイオキシンは主に人間活動によって作られたという、一般的合意がある。ダイオキシンの多くの発生源は、予防行動により短期間に減らせる、あるいは除去できる。
現在の方策は不十分である。
一部のデータは、恐らく古い焼却炉を閉鎖したり装置の改良をしたため、及び汚染抑制と技術の変化のために、ダイオキシンレベルが低下したことを示しているが、問題は解決していない。
例えば、さらに多くの塩ビ製品が焼却されたり、火災事故で燃えたりすれば、将来ダイオキシンレベルは上昇するだろう。
ダイオキシンに対する予防的アプローチは、疑いもなく被ばくゼロの目標を設定することであり、それは恐らく放出ゼロを意味するだろう。
しかし、何段階化の予防がある。
穏健な予防アプローチは、最大のダイオキシン発生源を減したり、除去することに、まず見られるだろう。
最大の発生源は、一般廃棄物と医療廃棄物焼却・パルプと紙の生産・鉄や鋼鉄の生産・有害廃棄物焼却・野焼きであることを知っている。
しかし、ダイオキシンを作り出すものはどこかに、恐らく、火がつき制御なしで燃える埋め立て地や、第三世界に運ばれることを、このアプローチは意味している。
予防の強いバージョンである、物的アプローチは、ダイオキシンの究極の発生源である主な塩素源に向けて試みられるであろう。
焦点は、塩素系殺虫剤と溶剤・パルプと紙の生産・塩化ビニルプラスチックに、焦点があてられるであろう。
これまで最大の塩素を使用している塩ビの段階的廃止は、疑いもなくダイオキシン放出を大きく減すだろう。
しかし、次に、塩ビのかわりは何か、それは安全か、それは塩素を含むかを、私たちは問わなければならない。
また、現在塩ビのために生産されている塩素が、ほかの製品に向かうかどうか、問わなければならない。
塩素の段階的廃止は、特に産業工程と製品で、ダイオキシンを実質的に排除する唯一の方法である。
さもなければ、どのくらいの量のダイオキシンは安全かを議論しながら、そして各発生源からの放出を評価しようと試みながら、私たちは発生源をいつまでも追いかけるであろう。
予防行動と、発生源と被ばくのモニターと測定のため、及び新たな被ばく源の可能性を発見するため、塩素のかわりのものを研究するため、かわりのものが深刻な問題を起こさないことを確実にするために、ますます多くの科学が重要である。
予防は同時にする必要がある。