・Ⅵ.予防の発動:過程の流れ
この章は、予防原則を特定の問題に応用する過程を述べる。
ここには2つのタイプのケーススタディを含める。
一つは新規のあるいは提案された活動に、もう一つはすでに存在する問題に向けたものである。
アプローチはほとんど同じであるが、微妙な差がある。
新規活動に関しては、潜在的に有害な活動の提唱者に立証責任を移すことを強調する。
その活動が有害でないということだけでなく、疑問な行動をせずに済ませることを含む、広汎なかわりのことを考えたことも、提唱者は証明すべきである。
もちろん、このような分析もまた、独立に立証すべきである。
既存の活動に関して、最も有効な手段は予防原則の心である。
害の証拠以前の行動と、ここでも提唱者に立証責任を伴って。
この決定の枝分かれは、健康と環境への脅威に対するかわりのものを定義し、吟味し、突き止めるために、首尾一貫した主張の基礎を提供する。
これらの常識に従って、意志決定過程の合理的な段階は、一部は実務書に書いてあるが、活動者が感情主義の非難を受けるのを少なくするだろう。単純な反対の立場をとるかわりに、主張するものは地域共同体を合理的で賢い解決に導くことができる。
これらの段階は単純である。
最初に問題あるいは潜在的な脅威の特徴を述べ、理解する。
分かることと、分からないことを理解する。
活動あるいは製品のかわりをはっきりさせる。活動の進路を決定する。
モニターする。(もし特定の活動の影響を知ることができたなら、とられた行動はもはや予防ではなく、防止策あるいは抑制行動である)。
ケーススタディA。新製品あるいは活動:自分たちの共同体で新しい殺虫剤を空中散布するという提案
ケーススタディB。既存の問題:漏れだしている埋め立て地
第1段階:起こりうる脅威を突き止め、問題の特徴をはっきりさせる
この段階の目的は、その活動が続けば起こるかもしれないことを良く理解することと、この活動に対する正しい質問をできるようにするためである。
うまく解決できないのは、問題の定義が悪かった結果であることが多い。
直接の問題と、この脅威に伴うかもしれないほかの全世界的なことを考えよ。たずねるべき疑問がある。
なぜこれが問題か?恐らく、それは一般人の健康あるいは環境に脅威を与える可能性を持っている。
その脅威の潜在的な空間規模はどうか、地域・州規模・地方・国・世界?
潜在的な影響の全範囲は?人間の健康、生態系、両方?特定の種あるいは生物多様性への影響が起こるだろうか?水路や空気・土壌への影響があるか?間接的な影響を考える必要があるか(製品のライフサイクル-生産と処分のような)?
一部の集団(人間あるいは生態系)が不釣り合いに強い影響を受けるか?
起こりうる影響(強度)の規模はどうか?害の程度は無視できるか、最小限、中程度、かなり・破滅的?
一時的な脅威の規模は?ここには2つの考慮することがある。1) 脅威と起こりうる害との間の時間経過(直ちに、近い将来、将来、将来の世代)。
害が生じるかも知らない将来が遠ければ遠いほど、影響を予測しにくくなり、問題を突き止めて停止させることが難しくなり、将来の世代が影響を受けるとさらに思われる。2) 永久の持続性(直ちに、短期、中期、長期、世代間)。
脅威はどのようにして元に戻せるか?もし脅威が生じた場合、容易に修復できるか、あるいは何世代にも渡って続くか?(容易に・急速に回復できる、回復は困難・高額、元に戻らない、不明)。
既存の問題に関する注意:目前にある問題をはっきりさせることは、将来の計画から起こる問題より困難でない。
しかし、最初の疑問は同じである。
問題は、特定の施設による局地的な汚染、あるいは汚染防止に対する幅広い注意の欠如、又はその両方か?それは政府の失敗によって起こったのか、又は会社の過失によって起こったのか?それは深刻な脅威か、あるいは目障りなのか?
A. 空中散布の場合、脅威は、人間と生態系の飛散農薬被ばく及び非標的生物への影響として、特徴を述べることができる。
空間的規模は局地的であろうが、もし農薬が残留性であったり、強風であった場合、影響は地方的あるいは世界規模でさえあり得る。
回復するというような、重大さと時間的規模は、農薬の毒性に依存するだろう。
B. 埋め立て地の場合では、問題は欠陥のあるライナーと町職員の不十分な検査によって生じる。問題は局地的と思われるが、もし浸みだしたものが表流水に入ると、長距離を運ばれるだろう。
埋め立て地から漏れだしたものに応じて、問題は短期間あるいは長期間となるであろう。
漏れは、埋め立て地周囲に住む集団に、不釣り合いに大きな影響を与えるだろう。
第2段階:脅威について、分かっていることと、分からないことをはっきりさせる。
この段階の目標は、この脅威を理解することの中にある不確実性の実態を、よりよく知ることである。
科学者は、私たちが知っていることに焦点をあてることが多いが、同様に、私たちが分からないことを明らかにすることは恐らくそれ以上に重要である。
後の考察で説明するように、不確実性には程度とタイプがある。適切な疑問は次のものである。
不確実性は、さらなる研究やデータによって減らせるか?もしそうなら、そして脅威が大きくなければ、実質的な利益を持つプロジェクトは続けられるだろう。
知ることができないことを扱っているのだろうか?又はそれについて全く無知なのだろうか?起こりうる害に関する高度の不確実性は、プロジェクトを前進させないための良い理由である。
多くのストレッサーに被ばくすることによる相加的及び相乗的影響について、及び、種々のストレスに被ばくが組合わさることによる集積した影響について、何が分からないか?
ある活動が安全であると政府や産業が主張していることは、まだ危険だと証明されていないという意味でしかないのか?
理解していることで、よりよい相対的な実態を知り、理解のギャップを知るために、脅威について分かっていることと、分からないことを、一覧表にしても良い。
A. 農薬の場合、恐らくあなたは不活性成分を知らないだろう。
不活性成分は農薬の大部分を占める。
恐らくあなたは、神経毒性と発癌(がん)性以外の、人間に対する健康への影響をほとんど知らないだろう。あなたは飛散と蒸発について知らない。
あなたは生態系や健康に対する相加的あるいは累積的影響を知らない。あなたは全被ばく経路(飲料水・シャワー・その他)や被ばくの程度を知らない。
あなたは、益虫や花粉を運ぶ生き物に対する影響を知らない。
ラベルに書いてある情報を手に入れなければならないし、同様に散布が提案されている日の風向と風速を知らなければならない。
恐らく、飛散に関する幾らかのモニタリングデータがある。
B. 埋め立て地の場合、多くの発生源から運び込まれるので、どのようなものが埋め立て地にあるかを、あなたは分からない。
あなたは、埋め立て地で物質間に生じると思われる反応についても、分からない。
あなたはその地域の水門学に関して幾らかの情報を持っているが、飲料水に影響を及ぼすかどうか、あるいは時が過ぎるとどうなるかを知らない。