・中日新聞より
根絶できぬシックハウス 厚労省が規制強化検討
2012/12/26 中日新聞・東京新聞 朝刊
シックハウス症候群の健康被害は減少傾向にあるものの、なくなってはいない。
厚生労働省がホルムアルデヒドなど化学物質十三種類について室内濃度の指針値を決めたのは十年前。
最近では新物質の問題も出ている。厚労省は来年にも新たな規制方針を打ち出す構えだが、シックハウス根絶は容易ではない。
◆続々と生み出される新化学物質
「メーカー側は無臭に近いものなど、いろいろと新しい化学物質を使っている。健康に害のないように、良かれと思ってのことだろうが、中には有害なものもあり、敏感な人は胸がむかむかするなどシックハウス症候群を誘発することもある」
財団法人「東京顕微鏡院」技術顧問の瀬戸博氏は、シックハウス症候群を発症するのは、化学物質に対する感受性が強い人だと指摘する。
一般的に、男性よりも女性、高齢者よりも若年層の方が敏感に反応する傾向にあるという。
「正確な統計はないが、過去の調査からすると、感受性が強い人は全体の約三割で、化学物質に何らかの反応が出る。本来、危険なものに対処する、動物が持つ生存に必要な能力。七割の人は退化したとも、現代の環境に適応したとも言える」
厚労省は九月、有識者による「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」を開いた。
同省化学物質安全対策室の担当者は「新物質の問題や、指針値以下なのに被害が出たなど、原因がよく分からない報告が増えている。
有識者の意見をまとめ、来年から二年ぐらいかけて、現在の数値を見直すか、新物質の指針を定めるかを決める」と説明した。
瀬戸氏によると、厚労省の規制強化に対し、住宅メーカーや建材業者は「強化されたら、とてもやっていけない」と難色を示しているという。
別の問題もある。新物質の指針値ができると、メーカー側は規制に引っ掛からない新たな化学物質を考案し、大量に使用する可能性がある。
新物質が次々と生み出されていくと、保健所などの検査機関の測定技術が、追い付かなくなるというのだ。
「空気中の化学物質の全体の濃度を規制すればよい」という考え方もあるが、瀬戸氏は「容易ではない」という。
厚労省は二〇〇〇年に、一立方メートル当たり四百マイクログラムという暫定目標値を定めたが、「毒性の疫学データに基づいたものではない。全体の濃度で規制するには科学的な根拠が必要だが、示せないだろう。技術が進歩していくのに、シックハウスはいまだに分からないことが多いことこそ問題だ」。
財団法人「住宅リフォーム・紛争処理支援センター」に寄せられた住宅のシックハウスに関する相談件数は〇三年度がピークで、五百四十六件。
その後は毎年、減り続けてきたが、ここ数年は百件前後で横ばい傾向にある。