・特 集
2 子どもの健康と室内空気中化学物質対策
内山 巌雄
京都大学大学院工学研究科
はじめに
1997年に「子供の環境保健に関する8ヵ国環境リーダーの宣言書」出されたが、シックスクール問題は化学物質による子どもの環境保健の一つである。
本稿では大人と異なる子どもの特徴を述べた上で、保育園や学校での化学物質汚染の現状を紹介し、その対策や予防について概略する。
1.子どもの化学物質摂取の特徴
1)摂取量を推定する際の子どもと大人の違い
大人に比べれば子どもの食事量や1日呼吸量は総量としては少ない。
しかし毒性を考える場合には体重1kgあたりで比較する必要がある。
表1に示したように、体重当たりでは経気道、経口、土壌や皮膚からの摂取量はそれぞれ大人の約2倍以上の量となる。
2)感受性の子どもと大人の違い
人間の子どもは未熟な状態で生まれ、生後も神経系の発達が盛んで、脳―血管関門も6歳頃までに完成する。
このような成長段階では、子どもは外界からの刺激に敏感である。神経系に作用する有機りん系農薬や、腸管から吸収されやすい重金属(鉛)、などについては子どもの時期に影響が大きいことがわかっている。
2.わが国の子どもの行動パターンに関する予備調査(環境省)
0?6歳児の保護者654名(有効回答率67.4%)にアンケート調査を行った結果では、休日に子どもが屋外で過ごす時間は男女とも18分~1時間であり、1日のうちのほとんどの時間を室内で過ごす傾向があると言える。
また、呼吸量は活動の程度によって約7倍も増減する。
今後はさらに例数を増やすと共に、保育園に在園中の子どもの行動を調査員が直接観察記録し、物を口に入れる動作回数、手などを嘗める動作回数等も検討を予定している。
3.子どもの特徴を考えた化学物質の測定場所について
室内汚染物質は、主に揮発性有機化合物(VOC)であるが、そのいずれも相対蒸気密度は空気の相対密度(=1)より大きく下方にたまりやすい。換気が不十分の場合、床暖房の使用中などでは室内に濃度差が生ずる。特に発生源が床材の場合は床から数10cmのところの濃度が高くなる。
子ども(特に1~2歳)は寝ころんだり、床に座って遊ぶことが多いので注意が必要である。
現在は床上120?150cmの高さで濃度測定することが多いが保育園や学校での測定では身長100cmを考慮し、子ども部屋、子どもがよく遊ぶ空間などでは床から20?50cmの高さでも測定しておくことが必要である。
4.シックスクール問題は何故おきるのか
シックスクール問題の発生の背景には以下の要因が考えられる。
?戦後新築され、耐用年数に達した校舎の建て替え(新築)。
?生徒数の減少による小・中学校の統廃合による増改築(リフォーム)。
?耐震補強工事の施行(リフォーム)。
?騒音防止、大気汚染防止、省エネのためのサッシ窓の使用による換気回数の減少(換気不良)。
?ゆとり教育、情報教育のための新規の教育設備、教材購入(新規購入)。
?アレルギー性疾患を持つ子供の増加や化学物質に過敏な子どもの増加の可能性(感受性)
このように、いずれもシックハウス症候群の発生しやすい状況に似ている。実例をみると、ほとんどが新築、改修後のホルムアルデヒド、トルエンの濃度が高かったことが主な原因とみられ、東京都の調査では、普通教室に比較して特別教室(音楽室、コンピュータ室など)の各種化学物質の室内濃度が高い。
一旦症状が出現しても、化学物質濃度が下がれば症状が消失する児童がほとんどであるが、いわゆるより微量な化学物質に反応する化学物質過敏症に移行し、重症例では登校不能になったりする例があり、取り返しのつかないことになる。
保育園や学校管理者は、化学物質濃度が基準を超えている場合は決して甘くみてはいけない。
5.シックスクール問題を起こさないために
シックスクール問題の予防と対策は、新築・改築による建材からの高濃度の化学物質の揮散、換気不良などの住まい方、および子どもの感受性の3つの面から考えると良い。
平成14年の「学校環境衛生の基準」の改訂で、新築・改築・改修を行った際には、ホルムアルデヒド及び揮発性有機化合物の濃度が基準値以下であることを確認した上で、建物の引き渡しを行うことなどを規定した。
また夏の気温上昇、特別教室などの換気不良、エアコンの使用などによって室内の化学物質濃度は上昇することを認識しておくべきである。
埼玉県教育委員会のマニュアルでは、児童生徒からの訴えや相談があった時の対応も詳細に触れている。
まず、?体調不良を訴える者に医療機関の受診を勧める、
?体調不良発生の経緯等を確認する、
?学校医、学校薬剤師の指導・助言を受ける、
?原因を調査するとともに教室等の環境衛生検査を行う、と規定している。また化学物質に過敏に反応する児童生徒の入学(転入)時の対応のフローチャートを示している。
要は化学物質に過敏に反応する児童生徒がいることを関係者が十分理解することが、シックスクール問題の予防・対策の第一歩となることを理解していただきたいと思う。