・タバコの煙とニコチン
? 妊娠中に喫煙をする女性から生まれた子供には、IQ 低下・学習障害・注意欠陥のリスクがある。
? 受動的にタバコの煙に被ばくした女性から生まれた子供も、会話や言語技術・知能の障害のリスクがある。
被ばく経路
タバコの煙とその成分の一つニコチンは、最も良く研究された神経発達毒物である。
多くの動物研究が純粋なニコチンで行われており、ニコチンは容易に胎盤を通過する。
一方人間の疫学研究はニコチンを含むタバコの煙中の複雑な混合物被ばくの影響を調べている。
しかし、動物のニコチン被ばくは妊娠中に母親が喫煙した子供で見られる影響と同じ影響の一部を子供に起こしており、そのためニコチンは観察された影響に大きく関与しているだろう。
動物の研究
動物と人間でニコチンとタバコの煙被ばくは、成長遅滞とその他の妊娠合併症(未熟・胎盤異常・呼吸障害症候群)を起こす。69
発達中の脳に関する有毒影響によって起こり、一般的な成長の遅れによるものではない出生前のニコチン被ばくの神経学的影響を調べるために、比較的低レベル被ばくで動物実験を行うことが重要である。
胎児への酸素供給を減らしてしまう大量投与は成長を遅らせ、神経毒性影響のみに関する情報が少ないだろう。
そのため、母親の喫煙による人胎児ニコチン被ばくレベルを良く模倣した少量注入ポンプを用いた動物実験は、非常に適切な情報を提供する。
ラットで親ネズミへの少量注入による出生前ニコチン被ばくは、幼い子供で多動性を引き起こす70。
この影響は雄で最も顕著である。
学習と記憶に関する試験結果は入り交じったものである。
通常、ネズミ類は幼年期から成熟するに従い、珍しい環境を探ることに強い興味を持つ傾向がある。
子宮内で少量のニコチンに被ばくしたラットは、幼児期に珍しい環境をすぐに調べるが、思春期以後は少なくなる逆の影響を示した71。
同じ変化はほかの迷路試験で見られた72。
これらのテストは試験の順序を変えることにより及びタスクを複雑にすることにより、他では明らかにされないニコチン誘導行動変化を時には明らかにすることも示している。
人間での研究
母親が妊娠中に喫煙した子供に関する多くの研究が、知的能力と成熟達成の減少などの悪影響を報告している。73,74,75,76
影響は誕生後すぐに明らかである。
例えば、BrazeltonNeonatal Behavioral Assessment Scalesを用いて調べた時に、喫煙者から生まれた幼児は被ばくしない幼児より、生後2、3、14日に点数が有意に低いことをある研究は報告している。77
ニコチンに被ばくした幼児は音に正常に適応できるが、音源に向かうことが下手である。
この所見は生後2 週間続く。
出生から 11 才まで追跡した 12,000 人の子供の大規模研究は、妊娠中1日に10 本より多いタバコを吸った母親の子供は、11 才で、一般的な能力や読書・数学技術が 3-5 か月遅れていた78。
研究者は、研究集団中の社会経済的および生物学的変数を補正した。
子供の集団を成人まで追跡した研究は、妊娠中に喫煙した母親の子供は23 才で、被ばくしない子供より、学業成績が有意に低いことを発見した79。
この研究は、社会階層・家族の人数・出生体重を調節した。母親の学業成績を統計的にコントロールしていなかった。
環境中のタバコの煙(「受動喫煙」)に対する母親あるいは子供の被ばくも、悪影響があると思われる。80
例えば、妊娠中に受動的なタバコの煙に被ばくした母親の子供を、6-9才の時期に交絡因子を調節した後に会話や言語技術・知能・視覚空間能力を試験した結果、母親が喫煙した子供と母親が被ばくしなかった子供との中間の成績であった。81
研究者は、被ばくした子供で注意欠陥と情報処理障害を書き留めている。試験には、言語理解や知覚組織化 perceptual organization・注意散漫でないことなどの 3 要因の点数がある子供のためのウェックスラー知能尺度を含んでいた。
環境中のタバコの煙の影響に関する動物実験で、出生前はタバコの煙に被ばくせず出生後にのみ被ばくしたラットは、被ばくしない動物と比較して脳内の DNA 含量が低下していた。82
神経毒性のメカニズム
成長遅滞を起こさないレベルのニコチンに対する妊娠中の被ばくは、胎児と新生児でコリン作動性ニコチン受容体の数を増加させ、影響は出生後のシナプス形成時期を通じて続くことを動物研究が明らかにしている。83
出生前のニコチン被ばくも、誕生後の時期に神経伝達物質ドーパミンとノルエピネフリンのレベルを正常以下にする。84
ノルエピネフリン利用の変化は、成熟した動物の脳の一部の領域で持続している。
ニコチンに被ばくしたラット胎児および新生児の研究は、脳内で DNA 合成減少を明らかにしている。85
このことは、高濃度のニコチン性受容体がある領域と急速な細胞分裂をしている領域で特に顕著であった。
しかし、タバコの煙は化学的に複雑であり、一酸化炭素と青酸を含む。発達中の脳に対するニコチンの直接作用のほかに、煙の他の潜在的な毒性のメカニズムには、一酸化炭素による酸素の低レベルと胎盤を通る栄養輸送障害があり、一般的な胎児成長遅滞を起こす。
結論
タバコの煙は複雑な化学物質の混合物であり、胎児期の被ばく後に神経機能に長く続く影響を持つ神経毒であるニコチンを含んでいる。
子宮内でニコチンに被ばくした動物と人間の子は多動であり、振戦の増加を経験し、聴覚応答性が障害される。
妊娠中にニコチンや他の汚染物質に被ばくした子供は神経学的試験成績に影響し、低い学業成績に関連する長く続く知的障害を示す。
環境中のタバコの煙(「受動喫煙」)も脳の発達をかき乱す。
runより:長めの記事になってきましたがこの論文の核心だと考えているからです。
化学物質が人体にどう作用するか?というのが大事で化学物質過敏症に繋がっていくのです。