・カドミウム
? 発達中のカドミウム被ばくの神経影響の研究は、入り交じった、時には矛盾する結果を報告している。
? 動物実験で、カドミウム被ばくは時期や投与量・被ばく経路・試験方法に依存して、多動性と活動減少・学習の入り交じった変化を起こす。
? カドミウムに被ばくした子供の研究の一部は、多動性と、言葉や IQ 成績の低下を示している。
被ばく経路
カドミウムは重要な生物学的機能を持たない金属であるが、様々な機構を通じて正常な神経発達を妨害する。カドミウムは、化石燃料の燃焼や採鉱・製造工程・下水汚泥・燐酸肥料・医療廃棄物や一般廃棄物の焼却から環境中に放出される。
カドミウムは、金属メッキやペンキの色素・プラスチック安定剤・ニッケルカドミウム電池などの種々の産業目的で使われる。
人間の最大のカドミウム被ばく源は食物で、成人の平均1 日摂取量は 10-30 mg/kg である。
土壌のカドミウムは葉菜により容易に取り込まれ、産業発生源からのカドミウムを含む下水汚泥で処理された土壌で成長した作物中でレベルが有意に増加する可能性がある。57
汚泥を施した土壌で育った植物を与えた家畜や実験動物は、カドミウム毒性が現れるだろう58。
カドミウムは汚染された沿岸海域で見られる貝類中に濃縮する傾向もある。
ほかの重要なダイオキシン源はタバコの煙である。
喫煙者には非喫煙者より約 2 倍の血中カドミウムレベルがある。
動物実験
いくつかの理由で、一生の初期のカドミウム被ばくの神経学的結果に関する研究は、例えば、鉛の研究より困難である。
カドミウムは急速に血液から除去され、腎臓や肝臓・膵臓・副腎に貯蔵され、血中レベルの測定は被ばくの指標として適さない。
慢性カドミウム被ばくは蛋白質メタロチオネンの生産を誘導し、メタロチオネンは金属と結合し、毒作用を低下させる。
しかし、カドミウムへの間欠的急性被ばくはこの機構を逃れ、より重度の毒性反応を導く。
動物実験では、穏和なカドミウム被ばくレベルでさえ、動物の体重増加を減らし、直接のカドミウム毒性と食物や水の摂取低下による栄養失調とを区別するのを困難にする。
最後に、胎児に対するカドミウムの影響は、胎児組織への直接的毒作用と言うよりは、胎盤機能障害や酵素阻害・ほかの脳の必須微量金属の変化といった主に間接的な結果であろう。
例えば、カドミウムにより誘導されたメタロチオネンは必須元素である亜鉛も結合し、先天障害などを含む亜鉛欠乏症を発症させる。
間接的な神経発達への影響は、妊娠中のカドミウム被ばくの研究が胎児脳中のカドミウムレベル上昇の証拠を見つけることをほとんど失敗しているという、観察からも推測されている60。
出生前にカドミウム被ばくした動物で、錯綜したあるいは時には矛盾する神経学的影響が気づかれている。
さらに雌は雄より神経発達影響に敏感であると思われるが、雄の動物が研究されることが多い。
多動性と自発活動減少の両方が、被ばくレベルや被ばく経路・活動レベル測定に用いた検査法によって、子供で気づかれている。61,62,63
逃避課題を学習する動物の能力も時々障害を受ける。64
ほとんどの場合、神経毒性は体重増加と成長に影響するほど十分な投与量の場合にだけ気づかれている。
妊娠中に、注射や餌・胃内投与・吸入による1日に0.1-4.0 mg/kg の範囲の母体被ばくレベルを、これらの研究は用いている。
対照的に、カドミウムに対する新生児被ばくは出生前被ばくより潜在的に有害である。
というのは、血液脳関門がまだ十分発達していないので、カドミウムは発達中の脳へ直接行くからである。
顕微鏡を用いた研究は、カドミウム投与新生児ラット脳で成熟ラットの脳では見られない障害を明らかにしており、未熟な血液脳関門がカドミウム神経毒性の重要な要因であることを示している。
ここでもまた、実験方法や投与量・被ばく経路に依存して動物研究は多動性や自発活動減少・学習の変化を幼い動物で明らかにしている。
人間での研究
いくつかの人間での研究が、カドミウムに対する早期被ばくの神経学的結果を調べようとしている。
これらは鉛とカドミウム被ばくの相互関連によって込み入っており、観察された影響に対するそれぞれの金属の相対的寄与を決定するのを困難にしている。ある研究は毛髪中カドミウムと鉛レベルと子供の多動性との間に有意な相関を発見した。65
5-16才の149人の田舎の子供を調べた別の研究は、子供のためのウェックスラー知能尺度によって試験し、毛髪中鉛とカドミウムレベルと言語と IQ 成績との間に相関を発見した。66
この研究は性や人種・社会経済状態を統計学的にコントロールした。興味あることに、鉛とカドミウムは知能の異なる側面に影響しているように見えた。
鉛レベルは IQ 成績低下と高い関連を持ち、カドミウムは言語 IQ 低下と良く関連していた。
前向き研究で毛髪を26人の新生児と母親から採取し鉛とカドミウムを分析した。67
6 年後、子供の能力のマッカーティ尺度 McCarthyScales of Children's Abilities によって子供を検査した。
子供の毛髪中カドミウムレベルは知覚と運動成績低下に相関した。
母親の毛髪中カドミウムレベルは、子供の認識や知覚・量を測る機能・運動の機能と相関した。鉛レベルも知覚や運動・定量的な得点と関係した。
作用メカニズム
カドミウムは、発達中の子供の脳に直接、間接的に有毒だろう。妊娠中、カドミウムは胎盤と重要な酵素機能、あるいは必須微量元素やそのほかの影響の利用可能性に干渉するだろう。
新生児の被ばくはノルエピネフリンやドーパミン・セロトニン・アセチルコリンなどの神経伝達物質レベルを変える68。
また、カドミウム被ばくは組織中のフリーラジカル生産増加と関連し、細胞膜障害とほかの種々の生理機能を変化させる。
runより:重金属の恐ろしさがよく分かると思います。