・問題の起源
これらの傾向に答えて様々な説明がされてきた。
考え方の一つの系統は流行は事実よりも見かけのものであるという主張である(より良い検出と記録保管、報告の増加、あるいは幼い時期に複雑な仕事を行う能力を高く評価するますます専門化が進んだ社会の要求の高まりの結果などの産物)。
これらの説明は部分的に正しいが、影響を受けた子供の教師や扶養者・親に対して説得力がない。
子供に最も近い多くの人は、観察された規模と発生率の障害が期待の高まりによって十分説明できることに疑いを持っており、このような障害が過去に気づかれずにいたことを想像できない。
学習と発達の多くの側面が遺伝的に影響されることにはほとんど疑いないが、これらの障害のほとんど大部分に関して遺伝因子が支配的な原因であるという証拠はない。
事実、もっぱら遺伝的であると思われる少数の症候群(即ちレッシュ=ナイハン、テイ=サックス病、脆弱X、その他)はごくまれである。
養子にした子供と双子に関する研究は、神経発達結果に対する遺伝と環境の要因がどのように影響するかについて光を投げかける。
私たちの理解は不完全であるが、現在、遺伝と環境要因の間の複雑な相互作用が極度に重要な役割を果たすことを確信している。
これらの発達障害の大部分を遺伝とすることは科学的な理解の状態ともはや一致しない。
むしろ、その結果は相互作用を持つ因子の結果であると現在理解しており、その要因の中に防ぐことが可能な環境汚染物質への被ばくがある。
この報告で、発達中の人間の脳に対する化学物質の影響の研究に打ち込んでいる科学である発達神経毒物学の重要な発見を再評価する。
このトピックを徹底的に取り扱うことはこの報告の範囲を超える。
むしろ、影響を受けやすい時期の化学物質被ばくによってどのようにかく乱されるか、脳発達の過程の短い概要を提供し、幾つかの一般的な被ばく又は汚染物質に集中する。
多くの他の化学物質と汚染物質の神経毒可能性に関する情報は非常に不適切であると、私たちは強調する。発達障害の起源に化学物質と遺伝・社会経済的要因の間の相互作用を認める大きな枠組みの中にこの議論を埋め込んだ。
生物学と環境科学・心理学・社会学の分野は一般に異なる手法や概念・伝統によって分離されているが、子供の発達の総合的な全体像はずっと妥当であり、知識を与えると思われる。
この分野間の断片化の中心にある子供は、各分野の進歩の利益を利用する総合した全体像から特に利益を得るだろう。
化学物質の急増・被ばく・そして不適切な毒性検査約8 万種の化学物質が米国で商業利用されている13。
これらの化合物の大部分は第二次世界大戦以来合成され、そのため進化の時間枠の中で人間の環境にとって新しい。人体内の化学物質の存在(生物モニタリング)や環境モニタリング・化学物質使用と放出情報によって示されるように、証明されたおよび潜在的被ばくは重要である。
妊娠の瞬間から大人になるまで、子供は金属や溶剤・農薬・その他の工業物質単独にそして複雑な混合物に絶えず曝されている。
これらの被ばくが人間と野生生物の発達をかく乱する程度はかなり重要で懸念される問題である。
しかし、EPA の放出目録にある化学物質に関し、基本的な毒性情報でさえ生産の多い 3000 物質の約 75%について公的に利用できる情報源がない14。
これらの化学物質の大部分に関する潜在的な神経毒性や発達神経毒性に関する情報は事実上存在しない。
発達毒性試験が行われた比較的わずかな化学物質に関して、人間被ばくのリスクを予測するために動物実験が用いられている。
しかし、人間のデータがないことを考慮すると、鉛や水銀・PCBでの私たちの経験は動物実験は人間の神経発達に対するリスクをはなはだ過小評価することが多いことを教えている。
大部分の化学物質について、動物データさえも完全に欠如し、現実世界を特徴づける化学物質の混合物被ばくの神経発達結果を調べるための系統的な努力がされていない。
要するに、多数の化学物質が、広汎な被ばくを招きながら、消費製品に広く使われており、環境に常に放出されている。
その神経毒の可能性全体に関する私たちの理解の限界には一つの特に不安な意味がある。
子供に対する神経発達毒性の脅威に関して既に知っていることは氷山の先端に過ぎないらしいことである。