・出展:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
http://kokumin-kaigi.org/
NEWS LETTER Vol.74
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・消費者のための食品表示を
理事・弁護士 神山 美智子
1、複雑怪奇な表示制度
現在の食品の表示制度は複雑怪奇です。
たとえば、食品衛生法と農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(以下「JAS法」と言います)のどちらにも、期限表示と遺伝子組み換え食品の表示の規制があります。食品衛生法、健康増進法については厚生労働省、JAS法については農林水産省の所管ですが、現在、食品表示については、すべて消費者庁に移管されました。
いわゆる保健機能食品のうち、特定保健用食品(トクホ)については健康増進法、栄養機能食品は食品衛生法に基づくものとなっています。
このように、食品表示に関する法律は、重なりあう部分もあるのに、逆に抜けている部分もあります。
また、罰則についても、JAS法は間接罰方式であるのに対して、食品衛生法は直罰方式であるなど、表示制度の根拠となる法律はわかりにくいものとなっています。
2、読んでもわからない表示
実際に食品の表示を見ても、添加物なのか、食品原料なのかもわかりません。
特に添加物の表示は例外だらけです。
たとえば、醤油に保存料を使っている場合、醤油自体を製品とする場合には表示が必要ですが、おせんべいに塗られる場合には、「キャリーオーバー」として表示する必要はありません。
そもそも食品添加物にはわからないことが多いのです。
最近では、食品添加物の中に遺伝子組み換えのものが発見されました。
ビタミン類は、添加物として使用されるものに限らず、医療用のものも含めて国産のものは全くなく、すべて輸入されていますが、そのような表示もなされていません。
食品についても、遺伝子組み換え食品の表示が義務付けられていますが、油や醤油など、加工工程で組み換えられたDNAやそれによって生じたたんぱく質が残らない場合には、遺伝子組み換えであることの表示義務がないという例外があります。
そのため、みそと醤油では、同じ大豆製品であっても、遺伝子組み換えの表示がないことの意味が全く異なります。
みそは、遺伝子組み換えの表示義務があるので、表示がなければ遺伝子組み換え食品ではないと言えます。
しかし、醤油は、表示義務がないので、表示がないということは、おそらく遺伝子組み換え食品であると考えられます。
遺伝子組み換え大豆を使っていない醤油には、その旨が記載されていることが多いです。
また、表示義務がある食品でも、原材料の重量に占める割合が5%未満のものは、例外として表示する必要はありません。
3、消費者の知る権利、選択の権利の保障
アメリカ合衆国のケネディ大統領は、消費者には安全を求める権利、知らされる権利、選ぶ権利、意見を聞いてもらう権利の4つの権利があることを宣言しました。
東京都は消費生活条例(1994年改正)に消費者の権利を謳い、2004年にようやく国も、消費者基本法の基本理念として、「消費者の安全が確保され、商品及び役務について消費者の自主的かつ合理的な選択の機会が確保され、消費者に対し必要な情報及び教育の機会が提供され、消費者の意見が消費者政策に反映され、並びに消費者に被害が生じた場合には適切かつ迅速に救済されることが消費者の権利であることを尊重する」と消費者の権利について明確にしました。(太字は筆者)
しかし、日本の食品関係法に消費者の権利は定められていません。
食品安全基本法(2003年)では、「消費者の役割を明らかにする」とありますが、消費者の権利を認めるものではありません。
消費者基本法ができれば、食品安全基本法の消費者の位置付けも変わると期待しましたが、そのようなことはありませんでした。
韓国の食品安全基本法(2008年)では、「食品の安全に関する国民の権利・義務と国及び地方自治団体の責任を明確にし、食品安全政策の樹立・調整等に関する基本的な事項を規定して、国民が健康かつ安全に食生活を営めるようにすること」を目的として、食の安全に関する消費者の権利を定めています。
消費者の権利を明確にすることに対し、「消費者の権利が認められれば、クレーマー消費者が増える」と懸念する事業者もいます。
しかし、消費者の権利を認めることと、そのようなクレーマー対策を考えるというのはまったく別の問題であり、食品表示を含めた食の安全に対する消費者の権利こそが確立されるべきです。
4、表示の不備に対する申出制度
食品については、表示に不備があった場合に対応するための制度も不十分です。
家庭用品については、不適正表示があった場合には、家庭用品品質表示法10条に基づき、消費者は経済産業大臣に対して申し出ることができ、大臣はこれを調査し措置をとる義務があります。
農林物資の規格不適合、不適正品質表示については、JAS法21条に基づき、消費者は農林水産大臣に対して申し出ることができ、大臣はこれを調査し、措置をとる義務があります。
しかし、食品衛生法や健康増進法に同様の制度は用意されておらず、JAS法に基づく品質表示基準以外の食品で不適切な表示があっても、調査義務が生じません。
すべての不適切な表示について、大臣に調査義務を課し、是正させることができるようにすべきです。
なお、市民・消費者・専門家が集まり、消費者から食の安全にかかわる不具合情報(食による体調不良、購入した食品の腐敗・異臭、偽装された食品、表示の偽装、誇大な宣伝、内部告発など)を知らせてもらい、インターネットに公表するという食の安全・市民ホットライン(http://www.fsafety-info.org/
)を設置していますので、ぜひ利用してください。
5、食品表示一元化の動き
冒頭でも述べたように、食品衛生法、健康増進法、およびJAS法の3つの法律の食品表示にかかわる部分については、消費者庁に移管し、消費者庁では、この3つの法律を食品表示法として一元化するための検討を行っています。
しかし、食品表示を規制する法律は、この三法だけではありません。景品表示法(1962年・不当景品類及び不当表示防止法)では、不当表示について一般消費者の利益を保護することを目的としており、たとえば、ほとんどがカラマンシーというかんきつ類の果汁なのに「シークヮーサー・ジュース」と表示したことを景表法違反として、公正取引委員会が製造販売業者に排除命令を出したというような事例があります。
その他にも、牛トレーサビリティ法、計量法、容器包装リサイクル法(1995年・容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律)、家庭用品品質表示法(1962年)、米トレーサビリティ法(2009)、酒税法及び酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(1953年・最終改正2011年)など、食品表示に関する規制があります。
このような複雑な表示制度では、消費者の安全の権利、知る権利、選択の権利、食品安全行政への参加の権利を保障できる食品表示とはなりえません。
私が代表を務める食の安全・監視市民委員会では、主婦連合会と合同で、2011年3月に、「食品表示法案要綱案」を作成し、消費者庁に提出しました
。
この要綱案により、消費者の食品選択に必要な情報を、誤認がないような適正な表示により、消費者の権利を守ることを目的とし、抜本的に食品表示を見直すことを提案しています。
( 本稿は、2012年3月2日に行われた神山美智子理事による食品表示制度の勉強会の内容を広報委員会で構成したものです。)
runより:さすが世界に通用しないと言われるJAS法ですね。
アレルギー患者のコンタミネーションとか当たり前の先進国ってどうよ?と思います。