・亜鉛ヒュームによる中毒
本災害の発生した事業場は船舶の艤装品や建築関係の部材等を製造している工場である。
この工場の建屋は南北に13m、東西に17m、天井高11mで南面に縦5m横6mの扉があり、工場内の一部は壁で区切られ塗装場および事務所として使用されている。
また、工場の天井部には排気口が設けられているが、全体換気装置等の強制換気設備は設けられていない。
工場の通常の業務は、発注者の発注内容に合わせ、持ち込まれた材料を使用して製品を造っているもので、作業としては鋼材等の切断、仮組立、溶接、塗装などがあり、それぞれを7人の作業者が分担して行っていた。
被災者は仮組立を担当している作業者であるが、過去に造船会社に勤務しており製罐工としての経験が長く、ガス溶接技能講習も修了しているために作業全体の指揮も行っていた。
災害発生当日の被災者は、前日までに溶接が済ませられた艤装品のはしごについて、ひずみが生じた部分をガス溶接機を使用して加熱し、設計通りに修正する作業を行うことになっていた。
また、このはしごは約9.5mの長さがあり、ひずみを修正する作業にはかなりの手間がかかるため、その日の終業時間まで作業を行う予定であった。
被災者は午前8時の始業時から1人で作業を始めた。
正午に作業を中断して休憩し、通常通り昼食を取った後、午後1時より作業を再開した。
午後3時頃、被災者は急に気分が悪くなったため、事務室で30分程休憩を取ったが、症状が悪化したため病院に運ばれ診察を受けたところ、亜鉛による急性中毒であることが判明した。
その後の調査により、はしごの材料である圧延鋼材は腐食防止のための塗装がなされており、その塗装に使用した塗料は溶剤と亜鉛のペーストを混合したものであったことが判明した。
工場内部は通風が悪く換気が十分に行われていない状態であったため、被災者がガス溶接機ではしごを加熱した際に、材料の鋼材に塗装されていた塗料中の亜鉛がヒュームとなって作業現場に漂う状態となっていたものである。
そのため被災者は作業中に亜鉛のヒュームを吸入して中毒となり、金属熱を発症したものである。
なお、この工場では、溶接の担当作業者にはそれぞれ専用の防じんマスクを貸与していたが、被災者には防じんマスクが貸与されていなかったため、災害発生当日は被災者自身が購入したガーゼのマスクを使用していた。
(1) 有効な呼吸用保護具を使用していなかったこと。
(2) 作業現場において十分な換気措置が行われていなかったこと。
(3) 亜鉛を含む塗料および金属ヒュームの危険有害性に対する認識が乏しかったこと。
(1) 国家検定品の防じんマスク等、有効な呼吸用保護具を使用すること。
(2) 作業現場において十分な換気措置を行うこと。
(3) 有資格者に対しても再教育を行い、金属ヒュームの危険有害性を十分に認識するようにすること。