・(3) 電磁波過敏症に対する日本の対策
19 カロリンスカ研究所のオーレ・ヨハンソン博士との共同研究として「Pathophysiology Volume 19, Issue 2,April 2012」に掲載。
日本においては,電磁波過敏症に関し,行政として何らの対策も執られていない。
また,一部の熱意のある研究者により電磁波過敏症についての研究がなされているものの,国内で電磁波過敏症についての十分な調査・研究が行われているとまではいえず,我が国における電磁波過敏症の有病率も不明である。
電磁波過敏症については,特定の素因を有する者だけに生じる症状ではなく,電磁波曝露の量が増えれば,誰にでも生じうる可能性があるとの指摘や,近年,電磁波過敏症の有病率が増加しているとの指摘もある。また,現に,電磁波過敏症を発症し,居住,就業等,日常生活のあらゆる場面で不自由を強いられている人々がいるのであり,これらの者が安心して生活していける環境を確保する必要もある。
そこで,我が国としても,電磁波過敏症に関する実態調査とこれを踏まえた
発症のメカニズムと予防・治療・対策の発見に向けた研究に着手すべきである。
(4) 人権保障の観点からの対策の必要性
前記のとおり,WHOのファクトシートでは,電磁波曝露との因果関係を断
定すること自体は避けているものの電磁波過敏症という症状そのものの存在を認めており,既知の症候群とはいえないとしている。
また,国を挙げてユビキタス社会の実現を標榜する我が国では,携帯電話や無線技術を利用した各種機器が社会の隅々まで広く普及しており,日本全国,身の回りのどこにでも様々な周波数の電磁波が大量に飛び交っており,こうしたなかで,前記(2)でもみたとおり,電磁波過敏症を発症し社会生活に支障が生じてしまった人々が出てきていることも事実である。
電磁波過敏症を発症した人々は,程度の差こそあれ,電磁波に曝露されることで体調が悪くなるため,常に身の廻りにある電磁波の発生源を気にしながら生活している。
なかには,特段の規制立法がない現状で次々と設置が進む携帯基地局から逃げるように,引越しを余儀なくされている人々もいる。
その結果,電磁波過敏症を抱えた人々は,就業が著しく制約されて経済的に追い込まれるばかりでなく,外に出ること自体が困難となる結果,一般的文化的な生活を送ることにすら支障を感じることとなっている。
また,電磁波過敏症については前述のとおり十分な調査研究が行われていないことから,電磁波過敏症発症者は医療機関に出向いても適切な治療を受けることができず,精神的な疾患として片付けられてしまっている場合も存在するとの指摘もある。
こうした現状を放置していることは,電磁波過敏症発症者の人として健康で
文化的な生活を営む権利を否定することであり,憲法の定める生存権に照らしても許される事態ではない。
ここにおいて,電磁波過敏症患者が安心して社会生活を続けられる環境を検討し整備していくことは,人権保障の観点からも要請されるところであると認識すべきである。
この点,スウェーデンでは,行政が電磁波過敏症を訴える人々の団体と定期的に情報交換をする機会を設け,またこうした団体の活動資金を援助している。
その影響もあってか,我が国と比べて,同国では,例えば,病院内に電磁波オフの部屋が設けられていたり,携帯電話での通話にハンズフリーを使用している人々を見かけることが珍しくないなど,電磁波の健康影響に対する国民の関心は高いように感じられる。
また,同国の地方自治体にはさらに進んで,住宅の改修費用の一部を補助しているところもある。
他方,スイスのように,携帯基地局の設置・運用において周辺住民の健康に配慮した厳しい規制を設け,また,これらに関する情報公開を通じて,無秩序な電磁波曝露から住民を保護しようとしている国もある。
さらに,前述の2011年に欧州評議会議員会議において出された電磁場の潜在的な危険性等に関する決議においても,加盟国に対し,電磁波に過敏な人々に特別な注意を払うことや無線ネットワークに覆われていない電磁場フリー(オフ)のエリアを設けること等,電磁波過敏症の人々を守るための特別な対策を講じることを勧告している。
いずれも,電磁波過敏症発症の機序ないし広く電磁波による健康影響がいまだ科学的に完全に解明されるに至っていない現段階においても,十分に採りうる施策であり,我が国において行政が電磁波過敏症との関係で何ができるのかを考える上で参考になるものと考えられる。
我が国も,その発症の機序が科学的に解明されない限り電磁波過敏症は存在しないとして扱うのではなく,現実に電磁波過敏症と称される症状を訴える患者が出てきている事実を直視し,その実態調査とこれを踏まえた発症の機序や予防・治療等の発見に向けた研究に着手すべきであり,あわせて,多くの電磁波過敏症患者が不安と感じている携帯基地局等の電磁波発生源についての設置・運用規制やこれらに関する情報公開等を通じて,電磁波過敏症発症者も安心して暮らせる環境整備をなすべく,対策の検討を始めるべきである。
以上
(別紙)電磁波に関する単位について
① 周波数・波長
・周波数:1秒間に繰り返す波の回数 Hz(ヘルツ)
1000Hz=1kHz 1000kHz=1MHz 1000MHz=1GHz
・波長:1回の波(振動)で電磁波が進む距離
② 電磁波の強さ
・低周波
電界と磁界が独立した関係にあり,別々に測定する。
電界:V/m(ボルト/メートル,1m当たりのボルト値)
磁界:T(テスラ),G(ガウス)
通常はmG(ミリガウス),μT(マイクロテスラ)を使うことが多い。
1G=0.0001T,10mG=1μT
・高周波
高周波は波長が短く,電界と磁界が一体化しているため,まとめて電力
密度という単位を使うことが多い。
電界:V/m(ボルト/メートル)
電力密度:W/㎡(ワット/平方メートル,1 平方メートルを通過する電気量)μW/c ㎡(マイクロワット/平方センチメートル)
・比吸収率(SAR値)
人体が電磁波にさらされることによって単位質量の組織に単位時間に吸
収されるエネルギー量のこと。
電界,磁界,電力密度が電磁波そのものの強さを表すのに対して,電磁波のエネルギーがどれくらい人体に吸収されるかを示す値。
SAR値:W/㎏(ワット/キログラム,人体の組織1kgあたりに吸収される電力の割合。)
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