・④ 高周波とがん
携帯電話(主に800MHz~2GHzの高周波)の使用と脳腫瘍との関連について,インターフォン研究9の結果,2011年5月,IARCは,携帯電話などの高周波をグループ2B(発がん性があるかもしれない)に分類した。
IARCの2B分類を受けて,国立がん研究センター(日本)は,「1640-2000時間にもおよぶ累積通話時間が大きい群では,グリオーマ10の発生のリスクがあることが報告されており,過度の携帯電話による通話は避けたほうがいいと考える。
子供は成人に比べて携帯電話によるエネルギーの脳への影響が2倍以上という報告もあることや,20歳未満の子どもが長時間携帯電話で通話した場合の発がんへの影響についてはまだ報告されていないため,小中学生・高校生の携帯電話の使いすぎは注意すべきである。」と警告している11。
なお,高周波に関しては,WHOは前述の低周波と同様のクライテリアを
まだ公表していないが,今後公表する予定とされている12。
⑤ 電磁波(低周波・高周波)が遺伝子に及ぼす影響
前述バイオイニシアティブ報告書「公衆のための要約」では「がんの危険
は,成長と発達の遺伝的設計図を変更するDNAの損傷に関連している。DNAが損傷されれば,損傷された細胞は自然死しない危険がある。
代わりにDNAを損傷された細胞は増殖をつづけ,それががんの前提条件のひとつになる。
DNA修復の減少もまた重要な役割を果たし得る。
DNAの損傷率がその修復率を上回れば,変異が保持されがんが発症する可能性がある。低周波電磁波と高周波のDNAへの作用の研究は,がんとの関連もあり得るので重要である。」,「低周波電磁波と高周波の両者は,既存安全基準を下回る曝露水準を含むある種の条件下で,遺伝毒性(DNAの損傷)を示すと思われる。」と述べている。
9 インターフォン研究: 「携帯電話使用と脳のがんのリスクに関するインターフォン研究」(2010年5月報告)IARCを中心に日本を含む13か国の研究データをもとにした大規模疫学研究。
10 悪性脳腫瘍である神経膠腫
11 もっとも,インターフォン研究が症例対照研究であるためバイアスの可能性があり人間のデータは限定的とされたと考えられる,とも指摘している。
12 WHOはファクトシートで,携帯電話基地局及び無線ネットワークからの無線周波数(RF)への曝露レベルは非常に低く(国際基準よりも数千倍低い),これが健康悪影響を生じるという明白な科学的証拠はないとの見解で(2006年「基地局及び無線技術」),2011年更新の「携帯電話」でも,全世界の携帯電話加入件数が46億と推定されること,長期使用による影響についての研究は進行中であること,WHOは2012年までに電磁波による健康影響のリスク評価を行う予定であるなどを発表したにとどまっている。
⑥ 電磁波(低周波・高周波)とその他の疾患
がんのほか,生殖機能障害,うつ病等の精神疾患等,世界各地の研究者や専門家らによってその発症に電磁波の影響が疑われている症状や疾患は多岐に及んでいる。
我が国でも,健康影響や健康被害を訴えて携帯電話中継基地局の撤去や操業差止めを求める運動や訴訟が全国各地で起こっているが,そこで訴えられている症状,疾病は非常に多岐に渡る。例えば,鼻血,耳鳴り,頭痛,不眠症,めまい,嘔吐,飛蚊症,極度の視力低下,眼痛,嘔吐,強度の倦怠感,甲状腺腫瘍,がんの再発などである(沖縄県医師会報における新城哲治報告等)。
また,電磁波曝露をきっかけに電磁波過敏症を発症した例もある13。
13 WHOはファクトシート(2007年6月「超低周波の電磁界及び磁界への曝露」)において,白血病以外の小児がん,成人のがん,鬱病,自殺,心臓血管系疾患等と低周波電磁界との関連性を支持する科学的証拠は小児白血病のそれよりさらに弱いとし,長期的影響は曝露低減により健康上の便益があるか不明なので科学的証拠の不確かさを低減するための研究プログラムの推進,利害関係者で開かれたコミュニケーション・プログラムの構築,新たな設備を建設する際には曝露限度低減のための低費用の方法の探索を推奨すること,などを指摘するにとどまる。