Q4 ビスフェノールAは、どのような規制がされているのですか。
食品用の容器等は、化学物質の発生源となり、その化学物質が体内に取り込まれる可能性があることから、これらの健康被害を防止するため、食品衛生法によって規制されており、必要なものには規格基準が定められています。
規制が必要な物質は、各種の毒性試験によって求められた、ヒトに毒性が現れないとされた量を基にして、含有濃度や溶出濃度が制限されます。
ビスフェノールAについては、動物を用いての急性毒性、反復投与毒性、生殖・発生毒性、遺伝毒性、発がん性などの様々な毒性試験が実施されており、その結果から無毒性量※が求められています。
これらの毒性試験における無毒性量を基に種差や個体差などに起因する不確実性※も考慮し、安全側に立って、ヒトに対する耐容一日摂取量※が1993年(平成5年)に、0.05mg/kg体重/日と設定されました。
それに基づいて、我が国の食品衛生法の規格基準においては、ポリカーボネート製器具及び容器・包装からのビスフェノールAの溶出試験規格を2.5μg/ml(2.5ppm)以下と制限しています
(用語解説)
※無毒性量 - 動物において有害な影響が観察されなかった最大量のこと。
※耐容一日摂取量 - 食品の消費に伴い摂取される汚染物質に対して人が許容できる量。つまり、これ以下の摂取量では一生涯毎日摂取しても有害な影響が現れない量のこと。
※不確実性 - これから起こるかどうかが確実でないと同時に、何が起こるのかも予測できないこと。
Q5 現在、ビスフェノールAについてどのようなことが問題になっているのですか。
ビスフェノールAの安全性は、前記のQ4に記載したような各種の毒性試験の結果に基づき評価されていますが、1997年(平成9年)頃から内分泌系※への影響が懸念される物質として、社会的に関心が持たれ、これまでに内分泌系などへの影響を調べるための試験研究が数多く行われてきています。
こうした試験研究の中で、動物の胎児や子供が、従来の毒性試験により有害な影響がないとされた量に比べて、極めて低用量(2.4~10μg/kg体重)のビスフェノールAの曝露※を受けると、神経や行動、乳腺や前立腺への影響、思春期早発※等が認められているという報告がされ、米国、カナダ、欧州連合(EU)ではこうした報告を受け、下記Q6で述べるような対応がなされているところです。
我が国においても、こうした低用量のビスフェノールAの内分泌系への影響に関しては以前より厚生労働科学研究などで研究を進めているところですが、最近の研究成果として、ビスフェノールAを妊娠動物に経口摂取させると、これまでの報告よりもさらに低い用量(0.5μg/kg体重)から当該動物の子供に性周期異常※等の遅発性影響※がみられたことが報告されています。
これらの動物実験が科学的に確かなものかどうか、ヒトにも起こりうるのかどうかについては、国際的にも議論があり、未だに不明な点も多く、今後の調査研究の進展が必要ですが、胎児や乳幼児では、体内に取り込まれたビスフェノールAを無毒化する代謝能力※が大人に比べて低いと予想されること、また、エストロゲン受容体※が機能する中枢神経系※、内分泌系及び免疫系※の細胞や器官は、胎児や乳幼児では発達途上のため、微量の曝露でも影響が残る可能性があることも指摘されています。
影響を受けるかもしれない対象が胎児や乳幼児であることを踏まえ、厚生労働省としては、このような食品からのビスフェノールAの摂取が健康に及ぼす影響について、現在、食品安全委員会に食品健康影響評価を依頼しています。
それらの結果、健康への影響が指摘されれば、新たな対策を検討することとしております。
なお、胎児や乳幼児以外への影響については、動物実験ではそのような低用量での影響が現れるという報告はなく、またそのような影響は胎児や乳児以外では、生体の恒常性維持機構※が発達していることから発現しにくいと考えられていることから、現行の規格値(2.5ppm)と同じ程度のビスフェノールAの溶出があったとしても、成人への影響はないものと考えられます。
(用語解説)
※内分泌系 - 体の各部位の活動の調節に必要な信号を伝達するホルモンをつくって分泌する器官や腺の集まり。
内分泌器官には、視床下部、下垂体、甲状腺、副甲状腺、膵臓(すいぞう)の膵島、精巣、卵巣があり、それぞれ特定のホルモンをつくる。
内分泌腺からは血液中に直接、ホルモンが分泌される。
ホルモンが標的器官の受容体と結合すると、標的器官が特定の作用を起こすように情報が伝達される。
多くの内分泌腺は、脳の視床下部、脳の視床下部および下垂体へのフィードバックを介して、ホルモン信号が相互に作用することで制御される。
※曝露 - 化学物質や物理的刺激などに生体が曝されること。
経口、気道、経皮などの経路があるが、今回の場合、食品や水などを介した経口による曝露が問題となる。
※思春期早発 - 思春期に起きる体の性成熟が年齢からみて不相応な早い時期に起きてしまうこと。
※性周期 - 子宮内での妊娠に備えるために、卵巣や子宮の状態が一定の周期で変化を繰り返すこと。
月経が始まった日から次の月経が始まる前日までを1周期と数える。
※遅発性影響 - 化学物質への曝露直後に現れる影響とは反対に、曝露を受けてからある程度の時間を経て遅れて現れる影響のこと。
※代謝 - 生体が物質やエネルギーを外部から取り込み、体内で化学的に変化させ、不用なものを体外に放出する生理反応のこと。
ビスフェノールAなどの異物が体内に入ると、それを分解あるいは排出する代謝反応が起きる。
※エストロゲン - 女性ホルモンのひとつで卵胞ホルモンとも呼ばれる。子宮の発育や子宮内膜の増殖、乳腺の発達、排卵の準備をするホルモンで、生理の終わりごろから排卵前にかけて分泌が高まる。思春期以降分泌が増加し、更年期以降は分泌が減少する。(受容体については「内分泌系」の解説を参照してください。)
※中枢神経系 - 脳とせき髄の総称。感覚器官から入ってくる信号(情報)を処理して、適した反応の命令を筋肉に対して出す仕組み。
※免疫系 - 生体が、外界から体内に入ってくる異物(病原菌やウイルスなど)や体内で発生した異物(癌細胞など)に対して、生体にとって無害なものは排除せずに、体に傷害を与える有害なものだけを排除したり、その増殖を防いだりする仕組み。
※恒常性維持機構 - 生物体の体内の諸器官が、外部環境(気温・湿度等)の変化や主体的条件の変化(姿勢・運動等)に応じて、統一的に体内環境(体温・血流量・血液成分等)を、ある一定範囲に保っている状態及び機能をいう。
哺乳類(ほにゅうるい)では、自律神経と内分泌腺が主体となって行われる。