筏(1998)による〔『環境ホルモン』8 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・1.3 キャドバリーの報告
●『奪われし未来』との違い
 もう一冊のD・キャドバリーの執筆による全303ページの『the feminization of nature』も邦訳され、『メス化する自然』という書名で集英社から出版された。著者のキャドバリーも、コルボーンと同じく女性である。

ちなみに、DDTなどの有機塩素系農薬を使用禁止にまで追いこんだ『Silent spring』(1962年、邦訳『沈黙の春』、1964年、新潮社)を著したレイチェル・カーソンも女性であり、コルボーンは第二のカーソンとよばれている。
 『メス化する自然』の内容の大わくは、『奪われし未来』とほとんど変わらない。

副題にある「環境ホルモン汚染の恐怖」が、ドキュメンタリータッチで臨場感を盛り上げながら描かれている。

科学ジャーナリストだけあって多くの研究者とのインタビューをまじえながら、ヒトと野生生物に対する環境ホルモンの影響に関する研究の現状が解説されている。

とくに、研究者の苦労話や裏話がふんだんに盛りこまれているため、まるでSFのようにひきこまれてしまう。
 キャドバリーは、環境ホルモンとしてリストアップされている化学物質が内分泌系を乱すのではないかと疑われるようになった発端を、エピソードを織りこみながら紹介している。
 たとえば、DDTが人体のホルモン系に悪影響をおよぼすかもしれないと米国のマクラクラン教授がすでに1979年に警告したが、ほとんど誰も耳を貸さなかったとか、ダイオキシンの毒性の手がかりは、すでに1930~40年に、船乗りに頻発した皮膚病の一種クロルアクネ(塩素ざ瘡)の発症によって得られていたと指摘している。

ヒトの母乳中にDDTがふくまれていることが最初に報告されたのは1951年だそうである。
 わが国ではあまり使用されていないフタル酸ベンジルブチルやフタル酸ジブチルという、プラスチックを柔軟にする可塑剤の調査のいきさつも述べられている。
 英国の下水処理施設からの放流水にふくまれている物質が魚の性を変化させたという結果を、英国の農水産養魚研究所が『ネイチャー』誌に発表しようとしたところ、英国の環境局がそれを〝機密扱い〟

にしていたために断念せざるを得なかったという裏話も紹介されている。
 環境ホルモンの合成の歴史も紹介されている。

DDTはドイツにおいて1874年に合成され、PCBはもっと以前の18世紀に発明されたそうである。
 興味あるのは、1930年代に合成ホルモン第1号であるDESを発見した英国のドッズの話である。

かれは、この発見によって英国学士院院長にまで登りつめた。おどろいたことに、かれはアルキルフェノールやビフェニルのような合成物質の研究もすでにおこない、それらが動物の発情性物質であるらしいことを『ネイチャー』誌に発表している。