・発癌性
動物実験
グリホサートの発癌性はないとされている。
しかし、動物での発癌性実験や内分泌かく乱作用・疫学調査を総合的に考えると懸念を消し去ることができない。
米国環境保護庁は、グリホサートの再登録審査時に発癌性に関する3 つの研究を見直している(US EPA 1993)。
・雌ラットで甲状腺のC 細胞癌が、雄ラットで精巣の間細胞(ライデッヒ細胞*)腫瘍が増加したが、統計的に有意でないこと及び間細胞の発生率が史的対照と同じことから、発癌性があると考えなかった。
・別の実験では、雌ラットの膵島細胞の腺腫と幹細胞の腺腫・甲状腺のC 細胞腺腫が増加した。
しかし、環境保護庁は統計的に有意な増加が見られないなどの理由によって、発癌性があると考えなかった。
・マウスでの投与実験で腎臓の尿細管腺腫がわずかに増加したが、統計的に有意でないなどの理由で、発癌性があると考えなかった。
以上の研究で「統計的に有意な増加」表現がされている。統計的に有意にならないことと、起こらないことは同じ意味ではない。
これらの実験で、検出力が十分であったかどうかが問題である。
検出力は実験動物数などが影響する。実験結果の解釈については疑問が提出されている(Cox1998)。
精巣の間細胞(ライデッヒ細胞)の腫瘍は、先に述べたようにラウンドアップが精巣の間細胞でステロイド合成を阻害するという実験結果が示されていることからも再検討する必要があるだろう。
グリホサートは環境中に広く残留し、遺伝子改変食品に散布されることが多く、一部資料では400 ppm もの残留が認められているので、Gasnie et al. (2009)は人間の培養肝細胞をグリホサート自体とその製剤について、細胞毒性や遺伝毒性、ホルモンかく乱作用、アンドロゲンからエストロゲンへのアロマターゼによる転換に対する影響を調べた。
グリフォサート製剤はこれらのパラメーターに農業で使われる量より少なくても影響を及ぼした。
これらの影響はグリホサート濃度よりも、製剤に依存している。
DNA 障害は5 ppm で生じた。
これらのデータはグリホサート系除草剤の発癌性・変異原性・生殖毒性を考慮すべきであるとしている。
George et al. (2010)は2 段階発癌モデルを用いマウスの皮膚でグリホサートの発癌性を調べた。
グリホサートには発癌のプロモータとして働くことが分かった。
プロテオーム解析*1でグリホサートやプロモーターとして良く知られているTPA*2などでは2 倍以上発現している22 スポットが確認された。
その中の9 スポットはグリホサートやTPA を投与したマウス皮膚で共通した発現パターンを示した。
これらのスポットに相当するタンパク質はアポトーシスや増殖抑制、抗酸化反応など細胞の重要なプロセスに関係する。
これらはグリホサートは発癌プロモーション作用を証明し、そのメカニズムがPTA ににていることを示した。
*1 プロテオーム解析:プロテオミックスともいう。
ある生物がその時点で保有する全タンパク質のセットを調べる。
*2 TPA:12-O-tetradecanoyl-phorbol-13-acetate の略。
TPA は強力なプロモーターとして知られている。
DNA が傷害され,癌の素地が作られるが、それだけでは癌として成長しない。
プロモーターはこの異常な細胞を増殖させる物質などである。
● 疫学研究
スウェーデンのハーデルとエリックソンはスウェーデンで404 人の非ホジキンリンパ腫患者と741 人の対照について、除草剤や防腐剤・グラスウールなどへの被ばくと病気との関連を調べた。
この結果フェノキシ系除草剤との関係が認められた以外に、グリホサート被ばくがリスクを高めていることを報告している(Hardell and Eriksson 1999)。また、彼らは疫学研究でグリホサートと有毛細胞白血病の増加が関連することを報告している(Hardell and Eriksson 1999 を見よ)。
De Roos et al. (2005)らは大規模な前向き疫学研究である農業保健研究Agricultural HealthStudy で、グリホサートを散布している労働者の癌発生を調べた。
グリホサート被ばくと大部分の癌や癌全体との関係は認められなかったが、多発性骨髄腫との関係を示唆する結果が得られた。
不純物の発癌性
グリホサート製品であるラウンドアップの表面活性剤中に、発癌性のある1,4-ジオキサンが含まれているといわれている。
モンサント社もエトキシ化表面活性剤中に過去の製剤中に痕跡量存在したことを認めており、現在では「検出が困難な」極度にわずかなレベルに減らすことができたという(Monsant Company 2001)。
1,4-ジオキサンは、NTP により「人間の発癌物質として合理的に予測される」ものに分類されている(National Toxicology Program 2000)。
ジオキサンは経口投与により雌雄のラットで鼻甲介(鼻の中のでっぱり)で扁平上皮癌を、雌ラットで肝細胞腺腫を発生させた。
別のラットの経口投与実験では雌雄で肝細胞岸を発生させた。
テンジクネズミの経口投与では雄で肝細胞癌と膀胱癌を発生させた。
マウスではプロモーターとしての性質を持っていることが示されている。
腹腔内に投与すると、雄マウスで肺腫瘍の増加を招く。
ジオキサンは、溶剤として意図的に使われる他に、酸化エチレンやエチレングリコールの縮合反応の副産物として消費製品に入り込むことがあり、米国消費物資安全委員会(CPSC)によると、洗剤やシャンプー・表面活性剤・医薬品製造中に形成された1,4-ジオキサンに消費者が被ばくする可能性があるという。
CPSC は痕跡量であっても懸念があるとしている。
日本では環境中から検出されている(環境庁1999)。環境庁の検査では1998 年に102 検体中70 検体と高率に検出されている。