・タスクグループの評価
2005 年10 月、WHO は、> 0 から100,000 ヘルツ(100 キロヘルツ)までの周波数範囲のELFの電界および磁界へのばく露により生じるかも知れない健康リスクを評価するため、科学専門家のタスクグループを召集しました。IARC が2002 年にがんに関する証拠を調査したのに対し、このタスクグループは多くの健康影響に関する証拠をレビューし、がんに関する証拠を最新のものにしました。
このタスクグループの結論および勧告は、WHO の環境保健クライテリア(EHC)モノグラフ(WHO 2007)に公表されています。
タスクグループは標準的な健康リスク評価プロセスに従い、一般の人々が通常で遭遇するレベルのELF 電界に関して本質的な健康問題はないと結論しました。
したがって、以下では、主としてELF 磁界へのばく露の影響を取り扱います。
短期的影響
高レベル(100 マイクロテスラを十分上回るもの)の急性ばく露によって起きることが確認されている生物学的影響があります。
これはよく知られた生物物理学的なメカニズムによって説明されています。外部のELF 磁界は身体内に電界および電流を誘導しますが、その強度が非常に高いと神経および筋肉の刺激および中枢神経系の神経細胞の興奮性の変化を引き起こします。
長期的影響の可能性
ELF 磁界ばく露による長期的なリスクを調べた科学的研究の多くは、小児白血病に焦点を当ててきました。
2002 年、IARC はELF 磁界を「ヒトに対して発がん性があるかも知れない」と分類したモノグラフを公表しました。
この分類は、ヒトにおける発がん性の限定的な証拠があり、かつ実験動物における発がん性の証拠が十分ではない因子であることを意味します(ELF 磁界以外の例にはコーヒーや溶接蒸気があります)。
このように分類された根拠は、疫学研究のプール分析で、0.3~0.4 マイクロテスラを上回る商用周波の居住環境磁界への平均的ばく露に関連して小児白血病が倍増するという一貫したパターンが示されたことです。
タスクグループは、それ以降に追加された研究によってこの分類が変更されることはないと結論しました。
しかしながら、疫学的証拠は、選択バイアスの可能性など手法上の問題によって弱いものになります。
加えて、低レベルのばく露ががん発生に関与することを示唆するような生物物理学的メカニズムとして正当と認められたものはありません。
要するに、もしこのような低レベルの磁界へのばく露によって何らかの影響があるとすれば、それは今のところ未知の生物学的メカニズムによるものでなければなりません。
加えて、動物研究は主として影響なしとの結果を示しています。したがって、これら全てを考慮すれば、小児白血病に関連する証拠は因果関係と見なせるほど強いものではありません。
小児白血病はかなり稀な疾患であり、全世界で一年間に新たに発生する症例数は、2000 年は49,000 人と推定されています。
住宅内での平均磁界ばく露が0.3 マイクロテスラを上回ることは稀であり、そのような環境に住むのは、子供の1%~4%であると推定されています。もし磁界と小児白血病との関連が因果関係であるならば、磁界ばく露が原因であるかも知れない症例数は、2000 年の数値に基づいて、全世界で年間100~2400 人の範囲と推定されます。
これは、同年の発生数の0.2~4.95%に相当します。
したがって、仮にELF 磁界が実際に小児白血病のリスクを高めるとしても、全世界的に考えれば、ELF 電磁界ばく露が公衆衛生に及ぼす影響は限定的でありましょう。
ELF 磁界ばく露との関連の可能性について、多数の健康への有害な影響が研究されています。
白血病以外の小児がん、成人のがん、うつ病、自殺、心臓血管系疾患、生殖機能障害、発育異常、免疫学的修飾、神経行動学的影響、神経変性疾患などです。
WHO のタスクグループは、これらの健康影響全てについて、ELF 磁界ばく露との関連性を支持する科学的証拠は小児白血病に関する証拠よりはるかに弱いと結論しました。
いくつか例を挙げれば、(すなわち心臓血管系疾患や乳がんに関する)証拠から、ELF 磁界はこれらの疾患を引き起こさないことが示されています。