フェニトロチオンの毒性9 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・12. 内分泌系
ホルモンかく乱物質あるいは環境ホルモンという言葉は、内分泌系(ホルモンとホルモンを分泌する器官)に影響を与える物質に使われているが、日本での一般的な理解は、環境庁の「内分泌攪乱化学物質問題への環境庁の対応方針について-環境ホルモン戦略計画SPEED'98 -」(2)に記載されている、約70 種の化学物質のみを問題にしている傾向がある。

しかし、それはあくまでも一部の例でしかないことに注意すべきである。

12.1 エストロゲンへの影響
急性被ばくでケトン症を伴わない高血糖と糖尿が現れる(Hazardous Substances Data Bank2000)。
フェニトロチオンにもホルモンかく乱物質としての性質がある。

フェニトロチオンのようなホスホロチオエート殺虫剤はチトクロムP450 の自殺基質である。

これらの化合物はP450 によって酸化的脱硫を受け、原子状硫黄の放出と引き続く酵素への結合を生じる。

結果として、ある種の体内にある基質のP450 依存性代謝はこれらの殺虫剤被ばくによって阻害される。

2-ハイドロキシエストラジオール(2-OHE2)と4-ハイドロキシエストラジオール(4-OHE2)、16 アルファ-ハイドロキシエストロン(16 アルファ-OHE1)、エストリオールの形成はほ乳類では、ステロイド核上で種々の位置でのエストラジオールのp450 依存水酸化によって生じる。
本研究で、フェニトロチオン投与で前処理した雄のマウスは、対照と比較してマウス肝細胞マイクロソームで2-OHE2 と4-OHE2 の薬量依存性の二相性の減少を起こし、7 mg/kg の少ない投与量でさえ、実質的な減少を伴った。

また、フェニトロチオンの前投与は、エストロン形成の実質的な増加と共に、16-α-OHE1 とエストリオール生産の薬量依存性で二相性の増加を起こした。

恐らく2-および4-水酸化の阻害による流れの変化の結果であろう。

これらのデータは、フェニトロチオン被ばくはある種のP450 アイソザイム阻害によってエストラジオール代謝を変えることを示している(Berger Jr and Sultatos 1997, Hazardous Substances Data Bank 2000)。
フェニトロチオンがエストラジオール代謝に影響を与えることが報告されている。

フェニトロチオンなどの有機リン剤はP450 を阻害し、そのためP450 依存性代謝が阻害を受ける。エストロンなどの形成はほ乳類ではエストラジオールのP450 依存の代謝による。
Berger and Sultatos (1997)はマウスにフェニトロチオンを前投与し、肝臓で2-OHE2 と4-OHE2の生成が減少することを見た。

この減少は7 mg/kg という微量のフェニトロチオン投与でも起こった。

またエストロンとともに、16 α-OHE1 やエストリオール生産が増加した。
以上の結果はフェニトロチオンがエストラジオール代謝に干渉することを示す。

12.2 アンドロゲンへの影響
前立腺癌の治療薬として使われるフルタミドや農薬リニュロンは抗男性ホルモンとしての性質を持つことが良く知られており、フェニトロチオンと分子構造が似ている。

Tamura et al.(2001)はフェニトロチオンと男性ホルモン受容体の相互作用を調べた。
Tamura et al. (2001)はフェニトロチオンが男性ホルモン受容体に影響を及ぼすかどうか、まず培養細胞で検討した。

HepG2 という人間の肝臓癌由来培養細胞に、人間の男性ホルモン受容体の遺伝子と、男性ホルモンが受容体に結合したことがわかる遺伝子とを組み込んだ。

この培養細胞に男性ホルモン受容体の反応が最大となる濃度にジヒドロテストステロン(10 -7 M)とフェニトロチオン(10-8~ 10-6 M )とを加えた。
男性ホルモン受容体の反応は、フェニトロチオンの濃度が高くなるにつれ低下し、フェニトロチオンが性ホルモンの競合的拮抗物質*であることを示す。また、フェニトロチオンは高濃度で弱い作用物質(アゴニスト)としての性質を示した。
フェニトロチオンの男性ホルモン受容体拮抗物質としての強さは、前立腺癌の治療などに用いられている抗男性ホルモン薬であるフルタミドに匹敵し、環境汚染物質で抗男性ホルモン作用があるリニュロン(除草剤、商品名ロロックス)やDDT の代謝・分解産物であるp,p'-DDE より、それぞれ8 倍から35 倍強力であった。
生体内で抗男性ホルモン作用をフェニトロチオンが示すかどうか調べるために、Tamura et al.(2001)生後4 週に去勢された雄ラットに、生後7 週目からテストステロン誘導体(プロピオン酸テストステロン)を7 日間投与した。胃にフェニトロチオンを投与した。

別なラットグループにはプロピオン酸テストステロンと抗男性ホルモン薬フルタミドを投与した。

最終投与1 日後に、体重や体の組織の重量、有機燐で阻害される酵素であるアセチルコリンエステラーゼを測定した。
多量のフェニトロチオン(30 mg/kg/日)を投与したラットの体重は対照より少なかったが、少量投与(15 mg/kg/日)の場合には有意な影響は現れなかった。

しかし体重増加を比較するとフェニトロチオン投与でどちらでも減少した。
フェニトロチオンと抗男性ホルモン薬フルタミドは、生殖器関連組織の有意な重量減少を起こした。

影響を受けた組織は腹側前立、精嚢、肛門挙筋と球海綿体筋の合計であり、組織重量が対照より減少し、フェニトロチオンが生きた動物でも抗男性ホルモン作用を及ぼすことを示した。
Tamura et al. (2001)、構造的に類似した有機燐剤が同じ様な性質を持っている可能性があり、例えばパラチオンやメチルパラチオン、その他の有機燐剤も抗男性ホルモン作用を持っているという。
英国ブルネル大学のSohoni et al. (2001) は人間男性ホルモン受容体を発現させた組み替え酵母を使って、フェニトロチオンが男性ホルモン受容体に作用することを発見した。

フェニトロチオン単独で作用させると男性ホルモン作用物質(アゴニスト)として働き、男性ホルモンであるジヒドロテストステロンと共に男性ホルモン受容体に作用させると、非ヒドロテストステロンと拮抗する作用を示した。
男性ホルモンは妊娠後期に胎児が男性への性分化に重要である。

このためTurner et al. (2002)は妊娠12 日から21 日までフェニトロチオン(0, 5, 10, 15, 20, or 25mg/kg/日)を投与し、性分化に対する影響を調べた。
親ラットに有毒な投与量で、肛門と生殖器との間の長さや残存している乳輪数に影響がみられた。

これらの影響はインビトロや去勢ラットの系で知られた結果と比較すると軽かった。

この理由にはフェニトロチオンが親ラットで代謝されることや胎盤を経由しなければならないことが考えられる。

雄のトゲウオの一種は営巣する時に腎臓から糊状のタンパク質を分泌する。

雌のトゲウオの一種を外来性アンドロゲンに曝すと、その腎臓から糊状タンパクが分泌される。

Katsiadaki et al.(2006)はこの系を用いてフェニトロチオンやビンクロゾリンなどの抗アンドロゲン活性を検出している。

またアンドロゲンの支配下にあると思われる営巣行動を低下させ、求愛ダンスなどに悪影響を与える(Sebire et al. 2009)。

性的二型を示す脳構造への影響
動物の脳は雌雄によって視索前野内側部の核の形態が異なることが知られており、その差はホルモンなどの影響下にあることが報告されている。
Strve et al. (2007)は、フェニトロチオンの出生前被ばくが内側視索前野の性的二型を示す核に影響を及ぼすかどうか調べた。

妊娠12-21 日に母ラットにフェニトロチオンを投与した(20、21mg/kg)。性的成熟後にこの核の容積**を調べた。
肛門生殖器間距離短縮や乳輪の残存*など雄の子どもへの生殖的影響が見られたが、この影響は成獣まで続かなかった。

フェニトロチオンを投与した雄の子どもで、この核の投与量に関連する増加が見られたが、雌では投与量に関連した減少が見られた。
このことはフェニトロチオンが性的二型を示す脳の構造に影響を及ぼすことを示している。
*雄ラットで肛門生殖器間距離の減少や乳輪の残存は、仔ラットの雌化を示す指標である。
**内側視索前野の性的二型を示す核は、雄で体積が大きく、雌で小さい。

フェニトロチオン代謝物の影響
フェニトロオクソンは、アセチルコリンエステラーゼを阻害することがフェニトロチオンより強いことが知られているが、アンドロゲン受容体のアンアゴニストとしての働きを示さない(Tamura et al., 2003)。
ジーゼルエンジン排出粒子中の血管拡張物質としてニトロフェノール誘導体を研究してきたが、この他にエストロゲン作用と抗アンドロゲン作用があることを示されている。
Taneda et al. (2006)はジーゼル排出粒子中に存在し、フェニトロチオンの分解産物である3-メチル-4-ニトロフェノールの抗アンドロゲン作用を調べた。

遺伝子組み換え酵母を用いた検査で3-メチル-4-ニトロフェノールは抗アンドロゲン活性を低濃度で示した。

および去勢ラットを用いるハーシュバーガー=アッセイで、テストステロンとともに3-メチル-4-ニトロフェノールを投与した場合、精嚢や腹側前立腺、陰茎の重量の減少を示し、血漿中濾胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンが増加した。
これらの結果は、3-メチル-4-ニトロフェノールの抗アンドロゲン活性を示し、ホルモンかく乱物質と見なせることを示している。
これらに対して、住友化学のOkahashi et al. (2005)は、マウスで研究し、通常使用されるレベルでは内分泌系でホルモンかく乱を起こすとは思われないとしている。

12.3 副腎皮質ホルモンへの影響
Li et al. (2007)は未熟な雄ラットの副腎皮質に対する3-メチル-4-ニトロフェノールの影響を調べた。ラットに3-メチル-4-ニトロフェノール(1、10、100 mg/kg /日)を5 日間注射した。

副腎重量は注射したラット(10 や100 mg/kg)で減少した。

副腎皮質刺激ホルモンの血漿中濃度は100mg/kg を投与したラットで増加した。

コルチコステロンの濃度は投与した全軍で減少し、プロゲステロンは10 や100 mg/kg 投与でやや減少した。

3-メチル-4-ニトロフェノールは副腎皮質ホルモンで刺激した培養副腎細胞からのコルチコステロンとプロゲステロン産生を阻害した。

これらのことは3-メチル-4-ニトロフェノールは副腎に直接影響を与えてコルチコステロン産生を阻害することを示す。