フェニトロチオンの毒性3 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・4. 急性毒性
哺乳動物に対するフェニトロチオンの急性毒性は低いと考えられる(Extension ToxicologyNetwork 1995)。
4.1 急性中毒症状
急性中毒症状は良く分かっている反面、時にはインフルエンザや風邪などの病気と混同されることが多い。

以下に述べるような多彩な症状が現れる場合がある。

さらに、小児に現れる症状は大人とは異なることがある。
・吐き気・おう吐・腹部痙攣・下痢・流涎(Hazardous Substances Data Bank 2000)。
・頭痛・めまい・衰弱(Hazardous Substances Data Bank 2000)。
・鼻漏・胸の締めつけ感(Hazardous Substances Data Bank 2000)。
・眼のかすみあるいは薄暗いこと・縮瞳・流涙・毛様体筋痙攣・調節と眼球痛消失。

散瞳が時には見られる(Hazardous Substances Data Bank 2000)。
・筋肉協同の喪失・会話不明瞭・線維束性攣縮と筋の攣縮・全身の強い脱力(HazardousSubstances Data Bank 2000)。
・精神錯乱・混迷・眠気(Hazardous Substances Data Bank 2000)。
・呼吸困難・唾液と気道粘液の過剰分泌・口鼻のあわ・チアノーゼ・肺のラ音・気管支漏*・気管支痙攣・頻呼吸が記されている。非心臓性の肺水腫が重度の場合起こる。化学肺炎が見られる(Hazardous Substances Data Bank 2000)。
・気管支痙攣はフェニトロチオンに感作している喘息患者で、または薬理的なムスカリン作用として起こりうる(Hazardous Substances Data Bank 2000)。
・無秩序な断続的運動・失禁・痙攣・昏睡(Hazardous Substances Data Bank 2000)。
・徐脈・低血圧・胸痛が起こるだろう。頻脈と高血圧も記録されている。

心臓の不整脈と伝導障害は重度の中毒で起こるだろう。心筋炎が起こる(Hazardous Substances Data Bank2000)。
・主に呼吸中枢の不全または呼吸筋麻痺・強い気管支収縮・あるいはその全てから起こる呼吸停止による死亡(Hazardous Substances Data Bank 2000)。
・子供は大人と異なる主な徴候と症状を示すと思われる。中枢抑制・人事不省・弛緩・昏睡は子供で最も一般的な徴候である(Hazardous Substances Data Bank 2000)。

4.2 急性経口毒性
急性経口LD50 は、ラットで235-3344 mg/kg、マウスで715-1416 mg/kg、テンジクネズミで500-1850 mg/kg である(Extension Toxicology Network 1995,National Registration Authority forAgricultural and Veterinary Chemicals, 1999)。
・WHO は経口毒性に基づいて、フェニトロチオンを毒性Ⅱのクラスに入れている。WHOの分類は、強い方からⅠ a、Ⅰ b、Ⅱ、Ⅲに分けている。
・米環境保護庁(EPA)は、フェニトロチオンの経口毒性をカテゴリーⅡに分類している。EPAは毒性の強い方からⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳと4段階に分類しており、フェニトロチオンは毒性が第2 番目に強いグループに分類されている(OFFICE OF PREVENTION, PESTICIDESAND TOXIC SUBSTANCES 1999)。

Ⅱは中程度moderately の毒性があることを意味し、この分類には2000 年にEPA が使用を制限・禁止したクロルピリホスなどが含まれている(International Programme on Chemical Safety 1996)。

この様な農薬は、危険なものであるとして、使用を止める方向にあり、サンフランシスコ統合学区では使用しないとしている(Lynch et al. 2000)。
・人間の女性で報告されている急性経口毒性は、TD10 が800 mg/kg である(ExtensionToxicology Network 1995)。
・想定される経口致死量(人間):50-500 mg/kg(Hazardous Substances Data Bank 2000)。
・ネコの急性経口毒性は、142 mg/kg である(Extension Toxicology Network 1995)。
・人間に近いサルに対する毒性はラットなどよりも強いことが知られている(マツクイムシ防除に関するメモを参照)(Extension Toxicology Network 1995)。
次の表からも分かるように、フェニトロチオンの毒性は純粋なものより、工業製品(通常使っているフェニトロチオン)で毒性が強い。

これは不純物や保存中にオクソン体が形成されたことによる可能性がある(Extension Toxicology Network 1995)。
経口LD 50の例

オーストラリアNRA Review Report (National Registration Authority for Agricultural andVeterinary Chemicals, 1999)による動物(系統)

LD50(mg/kg)                   備考
ラット(ウイスター) 雄950雌600
ラット(ウイスター) 雄608
ラット(ウイスター) 雄700 ★ 同じ研究グループの結果で、★を付け
ラット(ウイスター) 雄490 ☆ たものは純粋なフェニトロチオン☆は工業品質
ラット(ウイスター) 雄1970雌3344
ラット(シャーマン) 雄740雌570
ラット(SD) 雄250雌250
ラット(SD) 雄330雌800
ラット(SD) 雄660雌1050
ラット(ホルツマン) 雌235
ラット(?) 雄503雌673
マウス(?) 雄1336雌1416
マウス(dd) 雄1030雌1040
マウス(dd) 雄1400雌1270
マウス(ウイスター) 雄775雌901
テンジクネズミ(?) 性? 1850テンジクネズミ(?) 雄1000テンジクネズミ(?) 雄500

4.3 急性経皮毒性
急性経皮LD50 は、ラットで890 mg/kg 以上、マウスで3,000 mg/kg 以上である(ExtensionToxicology Network 1995)。
米環境保護庁はフェニトロチオンの経皮毒性をカテゴリーⅡに分類している(OFFICE OFPREVENTION, PESTICIDES AND TOXIC SUBSTANCES 1999)。

4.4 急性吸入毒性
急性吸入LC50 はラットで5.0 mg /âと報告されている。

ラットの他の致死量は次の通りである。

4 時間吸入LC50、378 mg。気管内投与LD50、950 mg/kg。

静脈投与LD50、33 mg/kg。

腹腔内投与LD50 、300 mg/kg。ラットの経皮LD10 は300 mg/kg である(Extension ToxicologyNetwork 1995)。
米環境保護庁はフェニトロチオンの吸入毒性をカテゴリーⅡに分類している(OFFICE OFPREVENTION, PESTICIDES AND TOXIC SUBSTANCES 1999)。
マウスの急性毒性値は次の通りである。

経口LD50、229 mg/kg。皮下投与LD50、1000mg/kg。
腹腔内投与LD50、280 mg/kg。脳内投与LD50、1000 mg(Extension Toxicology Network 1995)。
テンジクネズミは、次の急性毒性値を持つことが報告されている。経口LD50、500 mg/kg。

静脈投与LD50、112 mg/kg (Extension Toxicology Network 1995) 。
米環境保護庁EPA は農薬の急性毒性を、強い方からⅠからⅣの4 段階に分類している。フェニトロチオンは、経口被ばくや経皮被ばく・吸入被ばく・眼への影響・皮膚刺激に関して、毒性Ⅱ(2 番目に毒性の強いグループ)に分類している(OFFICE OFPREVENTION, PESTICIDESAND TOXIC SUBSTANCES 1999)。

4.5 急性中毒例
室内でフェニトロチオンをダニ駆除のために使用して死亡事故を出した例がある(田谷他1976)。1975 年3 月、4 月、5 月に業者にダニ駆除のためにスミチオン散布をしてもらったが、6月からは自分たちで散布した。

9 月の散布後に子供たちが気分が悪いといい、学校を早退。12月3 日、スミチオン原液約1200 ml を希釈し、6 畳2 間と天井・押入に散布した。

散布終了後、外に出しておいた布団を乾燥不十分な押入に入れた。

この2 部屋に家族が寝た。
翌朝母親と子供が全身違和感と悪心嘔吐があり、寝込む。

3 日後、下痢と腹痛が現れる。5 日後5 才の女子の全身衰弱が激しく、医師の往診治療を受けるが、次の日(9 日)に死亡。診断は急性心不全。

スミチオン急性中毒が死因と考えられる。
10 日(散布7 日後)夕方、男子(8 才)が入院。縮瞳・対光反射消失・視力低下・意識混濁を示す。血清コリンエステラーゼ値は、0.04 と低かった。

入院後10 日で症状はなくなる。同夜、男子(10 才)入院。縮瞳・対光反射減弱・意識やや混濁・血痰がある。血清コリンエステラーゼ値は、0.07 と低い。脳波異常が現れる。10 日目で症状はなくなる。
11 日(散布8 日後)、母親(38 才)初診を受ける。血清コリンエステラーゼ値は0。縮瞳・視力低下・意識混濁。

精神症状が強く、夢遊状態で警察の保護を受ける。脳波異常が見られる。1月6 日退院時にも頭の重さや精神集中力低下が見られた。
15 日(散布12 日後)、父親(41 才)初診。全身倦怠・不眠・頭が重い。縮瞳はない。
* この例から、安全と宣伝されていても、不用意なフェニトロチオン使用は重大な帰結を招くことが分かる。

また、フェニトロチオンの影響は幼い子供ほど、早く強く現れることが分かる。

30 才男性がスミチオン原液(濃度不明)30 ml を飲んで自殺を図った例がある。

男性は発見され、治療を受けた。

患者には意識混濁があり、徐脈傾向であり、筋線維束攣縮が見られた。瞳孔は中程度縮瞳。

入院2 日目には痛覚逃避反応や睫毛反射がなくなり、一過性昏睡状態となる。

下痢・発汗が見られる。5 日目のコリンエステラーゼ活性は、血清で0.16 Δ pH、血球で0.09 Δ pHであった。

10 日目の検査で中程度の記銘力障害と注意集中の障害が見られた。42 日後に退院した。
入院時から脳波異常が見られ、退院後も続いている。

中毒800 日後の知能知的水準低下が続いている。
50%フェニトロチオン製剤を40 ml 飲み込んだ老齢女性は飲み込んだ2、3 時間はおう吐と下痢のみをし、次に20 時間無症状で、その後筋肉振戦・流涎・錯乱・筋繊維束収縮・筋脱力・横隔膜と呼吸筋麻痺が現れ、3 週間人工呼吸を必要とした。

この場合完全な回復に4 週間を要した(Hazardous Substances Data Bank 2000)。
56 才男性が50%フェニトロチオン乳剤約60 ml を飲んで自殺しようとした。

5 時間後、血液灌流と血液透析(HP-HD)治療が60 分行われ、以後症状は次第に改善した。

飲んだ4 日後、コリン作動性症状が再び現れた。

直ちに行ったHP-HD 治療は役に立たず、患者はフェニトロチオンを飲んだ後6 日で死亡した。

器官と組織に分布したフェニトロチオンの分析は、最も高濃度のフェニトロチオンが脂肪中にあったことを明らかにした(59 mg/kg 湿重量、ほかの組織内濃度の10倍以上)。

脂肪組織からフェニトロチオンが徐々に遊離することにより、長引く臨床経過と中毒の晩期症状を起こすことが示されている(Hazardous Substances Data Bank 2000)。
自分の自動車の床にこぼした約7.5%フェニトロチオン製剤をぬぐうために、吸湿性のテッシュを使った2 日以内に、33 才女性技術者は吐き気や痙攣・筋の脱力・精神的混乱・振戦を経験したので、血液コリンエステラーゼ活性を測定するように依頼した。

先の検査に基づいて、赤血球コリンエステラーゼは正常の86%で、血漿コリンエステラーゼ活性は正常の56%と考えられた。

彼女は入院し、アトロピンでなく塩化プラリドキシム治療を受けた。彼女は16 日後退院したが、24 時間以内に再入院し、ジアゼパムとアセトアミノフェン・塩化アミトリチリン・カルシウムで治療を受けた。

彼女は被ばく35 日後に退院したが、疲労と筋の脱力の発症を数か月訴え続けた(Hazardous Substances Data Bank 2000)。
遅れて起こった遅延性神経毒性の症例が、50%フェニトロチオンEC を40 ml 飲んだ70 才女性で報告されている。最初、中毒症状は明らかでなかった。しかし、飲んだ48 時間後、ある症状が明らかになってきた。

意識障害が見られた。筋繊維束攣縮と筋の脱力が見られ、一方3-メチル-4-ニトロフェノールのレベルは最大に達した。

硫酸アトロピンも2-PAM も効果がなかった。

3週間、患者は人工呼吸が必要であり、結果として筋力と神経学的状態は、フェノールレベル低下とともに、次第に回復した。

報告された晩期症状は一部のほかの有機リン化合物で報告されている有機リンエステル誘導遅延性神系毒性の症状ではなかった(Hazardous Substances Data Bank2000)。
25 人の労働者の中程度の中毒がチェコスロバキアで報告されている。

そこでは、強風の間に飛行機で50%フェニトロチオンを含む製剤を散布していた。

中毒の発症は吸入後2.5-6 時間後に現れ、症状は典型的であった。全血球ChE 活性は48%まで減少した。回復はアトロピンによる治療で3 日を要した(Hazardous Substances Data Bank 2000)。