・弱い被ばく
上記の2つの事件は公害あるいは事故で高度の被曝を受けた例ですが、高度被曝を受けなくても影響が現れたという研究が増えています。
その一部を紹介します。
カナダのインデアンでの研究
カナダのケベック州北部に住むクリーインデアンで調査が行われ、245人の幼児のメチル水銀被曝と神経の状態が調べられました。
最も多く見られた異常は深部腱反射の遅れで、男子で11.4%、女子で12.2%に見られました。
男児では腱の反射や筋肉のトーヌスの異常と母親の毛髪中の水銀濃度との間に関係があることがわかりました。
女子では有意な関係は認められていません。
最も強い被曝(毛髪中水銀13.0-23.9 ppm)を受けた母親から生まれた子どもに影響が強く見られています。
影響は、母親の毛髪中水銀が10 ppm増加するごとに7倍になることがわかりました。
1998年、カナダのケベック大学のビューターとエドワーズは、クリーインデアンで、メチル水銀と振戦との関連を調べ、報告しています。
振戦とは体の互いに反する筋肉が交互に収縮するときにふるえとして現れる不随意運動です。
静止状態の時に出現する振戦を静止時振戦、活動中に現れるものを活動時振戦といいます。
活動時振戦の中で運動をする時現れるものを運動時振戦、ある姿勢を保つときに現れるものを姿勢時振戦と呼びます。
断続的かつ不規則な不随意運動はミオクローヌスと呼ばれます。
メチル水銀を多く摂取している人では、指のミオクローヌスや指のふるえが見られ、運動後には静止時振戦がなどの微妙な影響が見られることがわかりました。
ニュージーランドの研究
ニュージーランドで、メチル水銀に胎内で被曝した子どもの発達の調査が行われました。良く魚を食べる11,000人の母親を先に調べました。その内1000人は妊娠中に週3回魚を食べていました。
妊娠中の被曝は毛髪で調べました。
強い被曝を受けた母親の毛髪中平均水銀濃度は8.8 ppmで、対照としたグループでは1.9 ppmでした。
発達の遅れは、強い被曝を受けた母親から生まれた子どもで52%、対照では17%でした。
この母親たちの毛髪中の水銀濃度は、日本やイラクで発達の遅れが生じた子どもの母親の値より低いことがわかりました。
発達の遅れは精巧な運動や言語などの面でも見られましたが、統計的に有意ではありませんでした。
強い被曝を受けた場合、出生時の体重が少なく、より未熟な状態で生まれることもわかりました。
その後の研究でも妊娠中の毛髪中水銀量が多い場合は検査成績が良くないことがわかっています。
ブラジル・アマゾンの研究
アマゾン川では金の採掘がされており、金の精錬に水銀を使っています。水銀の約半分は川に流されていると推定されています。
採掘されているところから 200 kmほど離れた村で調査が行われました。
毛髪中の水銀濃度は5.6~38.4 ppmの範囲で、メチル水銀はその72.2%~93.3% でした。
調査の結果、 汚染が強いと手先の器用さが劣ることが女性でわかりました。男女とも汚染が強いと色彩の識別能力が低下すること、視野狭窄などが見られたことが報告されています。
デンマークのファロイ諸島では漁業が盛んで、調査捕鯨も行っています。
海産物を多食し、調査捕鯨で得た鯨肉もよく食べます。
このためにメチル水銀やPCB汚染が危惧されています。
この島でメチル水銀やPCB汚染と子どもの知能や神経の発達に関する研究が行われました。
1986年~1987年に生まれた子どもを対象とし、7年後に知能検査や神経学的検査をしました。
運動機能や言語記憶、注意集中など20項目の検査が実施されました。
この結果、約半数の検査項目で異常が見られ、母親の毛髪中水銀が多ければ多いほど異常が現れることがわかりました。この研究グループでは、母親の毛髪中水銀濃度が10 ppm以下でも影響が出る可能性を指摘しています。