化学物質過敏性と遺伝的多形性(ポリモルフィズム) | 化学物質過敏症 runのブログ

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・化学物質過敏性と遺伝的多形性(ポリモルフィズム)
 
化学物質過敏性は患者の「妄想」のように扱われてきたが、カナダの研究が過敏症と遺伝的素因との関連について、新しい結果を発表した。
 
病気の発生は遺伝因子と環境因子の相互作用によると考えられている。

例えば、早期に発生する肺癌で、遺伝的素因が重要な役割を演じていることが報告されている。

しかし、この場合に肺癌の遺伝的素因がある人でさえ、環境因子である喫煙が大きな影響を及ぼしていることが報告されている。(Jonsson et al. 2004)
 
同様に、米国エール大学医学部のツアンらの研究グループは、コネチカット州白人女性で乳癌の」発症に対する外来異物代謝酵素CYP1A1*と血清中PCBレベルの影響を調べた。

健全なCYP1A1 m2をホモ*に持つ女性と比較して変異型のCYP1A1遺伝型を持つ女性は乳癌のリスクが大きく(OR*=2.1)、特に閉経後に大きいことを発見した(OR=2.4)。

血清中PCBレベルが高い場合、変異型CYP1A1 m2を持つ女性(OR=3.6)、特に閉経後の女性(OR=4.3)では更にリスクが高い。(Zang et al. 2004)
 
*CYP:チトクロムというヘムタンパクの遺伝子を言う。

この一群には多数の種類があり、多くの物質代謝に関与する。

1A1とか2D6というように分類する。
 
*ホモ:ヒトは母親由来の遺伝子と父親由来の遺伝子の2つを持っている。同じ種類(正常なもの又は変異したもの)を2つ持っている場合をホモといい、異なるもの(正常なものと変異したもの)を1つづつ持つ場合をヘテロという。
 
OR:オッズ比。2つの集団の間で特定の現象が起こる確率と起こらない確率の比
 
このように遺伝因子が発症の要因になっているが、環境因子はリスクを高める役割を果たしている。
 
外来異物を代謝・解毒する酵素の遺伝子の変異は化学物質代謝速度を変化させるので、多剤化学物質過敏性(MCS)の発症に影響を与える可能性があり、有毒化学物質代謝障害が多剤化学物質過敏性発症の底にあると推定されている。
 
カナダのトロント大学公衆衛生化学講座のマッケオンイエッセンらは、MCS症例は薬物代謝酵素の遺伝的多形性について対象と異なるなるかどうか、白人女性で調べた。

調べられた遺伝子は CYP2D6、NAT1、NAT2、PON1、PON2であった。(McKeown-Eyssen et al. 2004)
 
大きな差が遺伝子CYP2D6と遺伝子NAT2で見られた。

CYP2D6遺伝子酵素は毒物の活性化又は不活性化に関与し、NAT2遺伝子酵素はアリルアミンをタンパク質に結合できる物質に代謝する解毒に酵素である。
 
不活性なCYP2D6又は代謝速度が遅いNAT2の遺伝子をホモに持っている場合と比較して、活性の高いCYP2D6(OR=3.36)又はNAT2遺伝子(OR=4.14)をホモに持っている人は多剤化学物質過敏性患者に多く見られた。

さらに、活性のあるCYP2D6とNAT2の両方をホモで持っている場合は、さらに高いリスクを与えることが示されている(OR=18.7)。
 
また、有機リン系殺虫剤のオクソン体を解毒することが知られているパラオクソナーゼの活性の低い変異型である遺伝子PON1-55(OR=2.05)又はPON1-195(OR=1.57)も、過敏症患者が多く持っていた。

このパラオクソナーゼの遺伝子PON1が神経症状と関連することは、湾岸戦争症候群患者でも知られている。

 
ここで調べられた遺伝子は、体内で異物を処理する酵素群のごく一部である。

さらに多くの遺伝子が過敏性に関与している可能性を排除できない。

このような遺伝子の差は、何万とある遺伝子の一つであり、パラオクソナーゼの多形性では基質(様々な有機リンのオクソン体)の種類によってある変異では正常とされる酵素よりも速やかに分解するという、現象が知られている。

これは別の状況では変異型が有利に働くことを示している。

このことから、遺伝子の多形性(変異)は個性として考えることもできる。(私信 HT 2004)。
 
過敏性患者が訴えることは全て「頭の中にある」と片づけられたり、さらには精神病の一種のような扱いを受けてきたが、この報告は過敏性が身体の病気であり、妄想ではなく肉体的根拠があることを示している。
 
過敏性の発症はこの遺伝的要因と環境との相互作用の中で起こることであり、過敏性を誘発する物質がなければ発症は減少するかなくなり、症状も軽くなると考えられるので、不必要な化学物質の乱用は避けるべきである。