・国立病院機構盛岡病院化学物質過敏症外来便り 2009年3月号(Vol.7 No.1)
ク リ ー ン エ ア
これからの化学物質過敏症外来の方向性について
新聞報道されたので、ご存じの方が多いと思いますが、化学物質過敏症診療・研究のパイオニアとして日本だけでなく国際的にもリードしてきた北里研究所病院の臨床環境医学センターは、この2月でクリンーンルームを備えた外来を閉鎖し、3月2日より化学物質過敏症外来の診療は空気清浄機を備えた一般外来で行うことになりました。
関係者によると平成11年5月にクリーンルームを備えた化学物質過敏症外来をオープンしてから10年が経過し、一定の使命を果たしたとの認識に至ったとのことです。
さらに北里研究所での臨床研究や診療活動の結果、化学物質過敏症やシックハウス症候群が医療関係者のみならず、一般の方々にも認知されるようになってきて、最早これらの疾患が特殊な設備を有している限られた施設だけが診療できる疾患ではなく、通常の環境でも診療ができるようになることが求められてきて、今回の決断はその第一歩でもあると考えられたようです。
平成14年12月に開設された盛岡病院の化学物質過敏症外来は、相模原病院の臨床環境医学センターの開設に関わった水城が、どうにか一般外来で診療を始めようと試行錯誤を繰り返しながら始めたものでした。
たまたま使用されていなかった外来診察室を、化学物質過敏症外来のために少しでも良い環境にして提供しようと空気清浄機の設置や、隣の外来からの影響を少なくするための仕切りを付けたり、揮発性化学物質の発生源となる合版を使用していた引き出しをすべて取り外したりしました。
また病院の職員や清掃業者にも協力してもらってトイレの芳香剤の全面禁止や化学物質過敏症外来前の廊下でのワックスがけの禁止などを要請しました。
さらに本年4月からは懸案だった構内全面禁煙に持っていくことになり、さらに良い環境を提供できるのではないかと考えています。
当院の化学物質過敏症外来の当初からのコンセプトは、通常の環境でも工夫すれば患者さん達に少しでも快適な環境を提供して診療をしていくことでした。
その意味では時代のニーズにいち早く応えていったということが言えるのではないかと思います。
しかし化学物質過敏症に対する国としての認識はまだまだ不十分と言わざるをえません。
当院では、化学物質過敏症に対する自費診療は全く行なっておらずすべて保険診療で行っています。
当院で実施している化学物質過敏症診断のための化学物質負荷試験はじめ専門的な特殊検査の多くは保険適応がないため、患者さんの自己負担はありません。
そのため検査にかかる費用は研究費でまかなっています。
診察時間は新患では約1時間、再来では20-30分は取っていますが、時には再診料だけの負担なので、人的な経費、物品にかかる経費を考えると全く採算が合わないというのが現状です。
医療制度改定の影響を被り、ただでさえ赤字が深刻となっている医療機関の現状や、いくら化学物質過敏症を診ることができる専門医がいても、もともと専門医が少ない現状を考えると、今後化学物質過敏症診療を始める施設が増えることは非常に困難と思います。
化学物質負荷試験や、脳機能検査などに対する保険適応はすぐには難しいかもしれませんが、最低限疾患管理料などで点数化されることや、これらの診療を行っている医療機関への何らかの国の助成金が必要ではないかと考えていますが、みなさんはどのように考えられますか。
化学物質過敏症患者さんは確実に増えてきていて、診療ニーズも切実になってきています。
また公共の場での環境整備や、医療制度整備についての要望については、一般住民を巻き込んだ行政への働きかけも必要です。
みなさんのご意見を聞かせていただいて、一緒に化学物質過敏症診療の今後について考えていきたいと思っています。