・トポイソメラーゼⅡ阻害と白血病
ある種の抗ガン剤には、遺伝子であるDNAの構造を正常に保つ働きを持つDNAトポイソメラーゼⅡという酵素を阻害する性質があります。
この種の抗ガン剤を使用すると、比較的速やかに急性骨髄性白血病が発生することが知られています。
人間の第11番目染色体にあるMLL(myeloid-lymphoid leukemia)遺伝子の転座・再配列が起きていることが多く、この抗ガン剤がMLL遺伝子の異常な再構成を起こすことにより、白血病の発症に関与することが報告されています[3]。
乳児白血病でもMLL遺伝子の異常が高率(約80%)に起こっていることが知られています。
新しく発生した乳児白血病は母親がDNAトポイソメラーゼⅡを阻害する食品中の要因と医薬に対するの被ばくの結果生じるだろうと、ミネソタ大学の研究グループは仮説をたて、疫学調査を行った。
母親の食事中のDNAトポイソメラーゼⅡ阻害剤を含む食品摂取の摂取増加と急性骨髄性白血病増加との間に有意な正の関連見られた(オッズ比:中程度摂取=9.8、多量摂取=10.2)。
即ち、果物と野菜、ダイズ、コーヒー、ワイン、茶、ココア、ある種の農薬、溶剤、医薬に存在するDNAトポイソメラーゼ阻害物質に被ばくをすると、乳児の骨髄性白血病のリスクは10倍になるという。
他の潜在的なトポイソメラーゼⅡ阻害剤も調べたが、有意な傾向は見られなかった。[4,5]
DNAトポイソメラーゼⅡを阻害する物質には、ベンゼンの分解産物や、漢方薬、ダイズに含まれるゲニスタイン、アルコール代謝物、赤ワインやタマネギ、リンゴなどに含まれているケルセチンなどがある。
しかし、トポイソメラーゼⅡを阻害する物質について良く分かっていない[6]。
英国エジンバラ大学の研究グループはMLL遺伝子異常を伴う乳児白血病と妊娠中のトポイソメラーゼⅡを阻害する物質への被ばくとの関連を、ヨーロッパや中東、アジア(中国と日本)で調べた。
この研究で漢方薬や医薬品、DNAを障害する薬物の他に、母親の農薬被ばくとカーバメート系殺虫剤プロポクスル(PHC又はバイゴン)被ばくとが統計的に有意な関連を示した[7]。
この疫学研究には対象の数が少ないなどの欠陥があるが、プロポクスルはゴキブリやカの駆除などに広く使われているので、一層の研究と、使用に当たっては乳児白血病の原因となりうることに注意すべきである。
又は、妊娠している可能性がある時期には使用しない方が良いかも知れない。