・2. アンチモン(antimony)Sb
来 歴
アンチモンおよびアンチモン化合物の使用は、少なくとも紀元前4000年前には始まっている。
アンチモンの鉱石鉱物として輝安石と方安鉱がもっとも重要で、これらはしばしば鉛・銀・銅の鉱床に伴って産出する。
主要産出国はボリビア、南ア連邦、中国、フランス、メキシコである。
アンチモンの冶金における用途としては合金成分が重要である。
アンチモンは鉛やその他の金属の硬度を増大させる。アンチモン鉛は鉛蓄電池の電極格子、高純度アンチモンは半導体材料、硫化アンチモン(Ⅲ)は花火やある種のマッチ、顔料、ルビーガラスの材料に、酸化アンチモン(Ⅲ)は布の難燃剤、ガラスや陶磁器、ほうろう等に用いられる。
中毒症状・毒性
アンチモンは、細胞内の酵素や補助因子と反応することで毒性を発現する。
急性アンチモン中毒の毒性は、著しい体重の減少、脱毛、皮膚の乾燥、鱗片状の皮膚である。また、血液学的所見では好酸球の増加が、病理的所見では心臓、肝臓、腎臓に急性のうっ血が認められる。
古い磁性の容器を使用したことによる中毒事故も報告されている。
これは、容器内の飲料物が酸性で、アンチモンを容器から溶出させてしまったためとされている。症状は胃の灼熱感、せん痛、吐き気、嘔吐で3時間から数日の範囲で症状は回復する。
また、鉱山や溶鉱炉でアンチモン化合物を取り扱っている作業員に関して、アンチモン皮疹という皮膚に対するアンチモンの作用がある。アンチモン皮疹は、汗腺や脂腺の周りにできる丘疹や膿庖からなる発疹で、みずぼうそうの膿庖に似ている。
前腕や大腿、衣服が曲がったり擦れたりする場所にでき、気温の高いとこで起こりやすい。
塩化アンチモン(Ⅲ)、あるいは5価のアンチモン化合物を吸入した場合は、慢性鼻炎や肺水腫になるおそれがあり、長期暴露の場合は、気管支炎、閉塞性肺疾患を引き起こす恐れがある。
また、硫化アンチモンの曝露によって、心臓障害が起こる。アンチモンを取り扱う工場の女性従業員が、曝露されていない女性に比べ自然流産しやすいという報告もある。
アンチモンのエーロゾルに曝露された女性冶金従業員の間に、後期自然流産(対照群4.1%に対し12.5%)、早産(対照群1.2%に対し3.4%)、婦人科的な問題(対照群56%に対し77.5%)が高い割合で起こっている。生後3ヶ月目に、対照群の乳児に比べて成長の遅れ(体重)が出始め、1歳では有意となった。
水素化アンチモンは、無色の不快な臭気を有する有毒な気体である。
人の急性中毒の徴候は、頭痛、吐き気、脱力感、呼吸数の減少、弱くて不規則な脈拍である。
代 謝
アンチモンは消化管からかなりゆっくりと吸収され、アンチモン化合物の多くは消化管を刺激する。
血液では3価のアンチモンは赤血球に多く、5価のアンチモンは血漿中に多い。
アンチモンの排泄は3価5価ともに尿中と糞便からなされるが、3価は尿中に、5価は糞便に多く排出される。3価アンチモンは肝臓や赤血球との親和性が強い。
しかし繰り返し投与した場合には、赤血球中の濃度とは無関係に肝臓に蓄積する。
食品衛生上の注意点
ポリエチレンフタレート(PET)、4%酢酸で60℃、30分で溶出は0.05μg/mL以下の規格がある。
現在のところ食品衛生上の問題はない。
食中毒事例
アンチモンによる食中毒例は見当たらない。
アンチモンが0,2ppm以上含まれる食品