・3. 分析法
金属の分析法はいずれも灰化後原子吸光光度法、またはICP、ICP/Msなどで測定する。
1. 亜鉛(zinc) Zn
来 歴
金属亜鉛は、中世時代にインドや中国で製造された。ヨーロッパで金属亜鉛の抽出や製造が始まったのは1700年中ごろである。
亜鉛は25番目に多い元素で、自然界に広く分布している。
動植物の必須微量元素である。
最も多く存在し、かつ重要な鉱石は、硫化物(閃亜鉛鉱ZnS)、炭酸塩(菱亜鉛鉱)、ケイ酸塩(カラミンや異極鉱)、マグネシウムと鉄との混合化合物(フランクリン石)である。動植物にも広く分布している。
亜鉛の最も重要な用途は、鉄や鋼を腐食から守るため亜鉛やカドミウムの被膜を作る亜鉛めっき(トタン)である。
また、亜鉛化合物の用途としては、酸化亜鉛がゴムタイヤの補強剤、白色顔料、ステアリン酸亜鉛はゴム産業で粉付けゴム、硫化亜鉛は蛍光灯、ブラウン管などに使用する。
欠乏症
亜鉛が欠乏すると食欲減退、成長阻害、性器発育不全、角化症,神経精神症状,食欲低下,味覚・臭覚不全,ビタミンA欠乏症,脱毛などの症状が現れる。
亜鉛は亜鉛含有酵素であるアルカリフォスファターゼ,カルボキシペプチダーゼ,炭酸脱水酵素,アルコール脱水素酵素などの成分であり、亜鉛が欠乏するとこれらの酵素活性が低下する。
またインスリンや脳下垂体ホルモンの合成,分泌,標的器官結合、機能に影響を及ぼし、逆にホルモンは亜鉛の代謝に影響を及ぼす。
亜鉛の特徴は,遊離型で体内貯蔵量が極めて少ないことであり,食餌からの摂取が止まると24時間以内に,血清中の濃度は欠乏時の範囲に低下する。
この場合でも組織内の亜鉛濃度は一定期間正常値に保たれ、亜鉛と結合性の強いタンパクが組織中に多量に存在することが予想される.
また亜鉛の吸収は,摂取する化学形によって大きく左右される.
穀類中のフィチン酸によって亜鉛の吸収が阻害され,欠乏症の生じた例もある
食品中の亜鉛含量は動植物が生育する環境(水,土壌,大気)の影響を受けやすく,人工的にも栽培・生産(肥料,飼料組成)件によって異なる。さらに食品の部位,食品の加工調理過程の影響が大きく,亜鉛含量もこれらの要因により変動する。
中毒症状・毒性
職業上曝露による急性中毒では、生成直後の亜鉛ヒュームを吸入することで起きる金属ヒューム熱がもっとも重要である。
メッキされた鉄鋼の溶接に従事し、金属製煙霧にさらされてから3~10時間以内に風邪に似た症状(頭痛・寒気・倦怠感・疲労感・筋肉痛・発熱・発刊・咳) が現れる。
通常24~48時間で回復する。
また、亜鉛メッキの容器で酸性の液体を飲んだときの、嘔吐を含む消化器系症状なども起こることがある。
慢性経口摂取では、鉄芽球性貧血が知られている。
メカニズムとしては、過剰な亜鉛による、腸管からの銅吸収障害で銅欠乏が生じ、オキシダーゼ活性を有するセルロプラスミンの低下や銅酵素であるチトクロムオキシダーゼの活性低下による鉄再利用の阻害と考えられる。
慢性中毒の有無に関しては一定の見解がない。
代 謝
ヒトにおける生体内の全亜鉛量は、約2gといわれ、絶対量としては骨格筋(50~60%)、骨(28%)、肝に多く、濃度としては前立腺、肝が高い。
亜鉛の吸収は十二指腸から小腸にかけて行われ、受動的拡散とエネルギー依存性の単体輸送の2つの経路がある。
食物からの吸収率は20 ~30 %である。
排泄経路は、主として膵臓からであり、1日に2~5mgが膵液とともに腸管内に分泌される。尿中へは、1日に500~800μgが排泄されている。
汗中へは、尿中とほぼ同量の亜鉛が排泄される。
この他、腸上皮細胞の新陳代謝や、皮質角化層の脱落、爪・毛髪への移行等による排泄経路があげられる。
規 格
飲食物における亜鉛の規格試験としては,食品添加物の強化剤としてグルタミン酸亜鉛と硫酸亜鉛がある。母乳代替え食品(調製粉乳)が対象となっており,使用基準は標準調乳濃度で亜鉛として6mg/g以下である。なお,調製粉乳の加工技術の高度化とともに原料ミルク中に存在する亜鉛が脱塩などの加工工程で減少し、乳児の必要量を満たせなくなってきたので、これらの添加物の使用が認められた(昭和月7日環食化第38号)。
1日摂取推奨値:15mg/日
食品衛生上の注意点
亜鉛は人体にとって必須の金属であり,70kgの男子の場合には総量1.4~2.3gを保持しており、必要量は成人で15μg/日である。
成長期や妊娠時には,その要求量が40mg/日とされている。
亜鉛はグルコン酸亜鉛、硫酸亜鉛調製粉乳に食品添加物として強化されているが、無機亜鉛を大量に摂取すると、食中毒症状を呈する。
食中毒事例
昭和27年7月 金沢市において「乳飲料」を飲んで22名が中毒した。症状は腹痛、嘔吐、下痢を呈した。
原因は乳飲料を亜鉛引バケツに入れたために亜鉛が過量に溶出したことによる。
含有量
主要食品中で亜鉛含量の多いものは、牛肉50~80μg/g、豚肉20~50μg/g、鶏肉5~30μg/g、魚肉3~15μg/g、カキ140~270μg/g、大豆40~50μg/g、インゲン豆20~60μg/g、である。
野菜や果物などの植物性食品中の亜鉛含量は動植性食品に比べて一般的に少なく、野菜類1~10μg/g、果物類0.5~2μg/gである。
なお、野菜類では,果菜類に比べて葉菜類と根菜類が多く、主に緑色部に多い。
亜鉛が10ppm以上含まれる食品