・11. 器官・器官系などへの毒性
11.1 神経系への影響
中枢神経系への影響(中毒例も参考)
運動障害が現れる。神経精神学的異常や脳波の異常が急性被曝後数か月間続く。
精神医学・行動
中枢神経系の高次機能に対する有機リンの影響は良く分かっていない。Geraldi et al. (2008)は行動している成熟ラットで学習と記憶能力に対するダイアジノンやマラチオン、フェニトロチオンなどの有機リンの影響を調べた。
この結果、これらの有機リンは道具的条件付けの獲得と保持に影響を及ぼすことが分かった。
この他に一部の行動も変化した。
Buttemer et al. (2008)はフェニトロチオンが有袋類のフトオミントプシスの好気的代謝と運動成績を調べた。
動物に30 mg/kg のフェニトロチオンを経口投与した場合、3 日後まで走行持久力は対照動物の半分以下であり、5 日後では53%であった。
しかし、走っいる場合、代謝のピークは変わらなかった。
この研究者は致死量以下の農薬被ばくの影響を明らかにするのに、行動成績を用いることが重要であるとしている。
子孫への影響
行動欠陥が生まれた動物の新生児で記録されている。
スミチオン50EC製品0 、5、10、15 mg/kgを妊娠7-15 に毎日妊娠ラットに投与した研究は次のことを明らかにした。
一腹から生まれた子の数や一腹当たりの重量、開眼あるいは耳介の展開日に有意な差はなかった。分娩後16 日まで死亡率に有意な差があった。15 mg/kg の投与量で17.5%の子が死んだ。
10 mg/kg と5 mg/kg の投与量で16.0%の子が死んだ。
0 mg/kg で5%の子が死んだ。
15 mg/kg 群の1 匹の子は無眼で、1 匹は生後16 日に振戦と運動失調を現し、このために2 匹を研究から除外した。残りの子は正常に体重増加し、明らかな中毒の兆候を示さなかった。
有意な行動影響は最低量の5 mg/kg/日で測定できなかった。
10 と15 mg/kg/日で、いくつかの行動結果が対照と有意に異なったが、自発運動量や運動協調性のような「単純な」行動測定、および条件逃避や社会関係のようなより「複雑な」測定の間に差があるように見えた。
行動測定は、誕生後104 日も長く有意な変化を示し、出生前のスミチオン中毒は、子供が投与しない動物から異なって見える、持続性の影響を持つことを示している。
覚醒状態低下・表出言語と認識機能の欠陥・記憶障害・抑うつ・不安・易興奮性・精神病が報告されており、有機リン中毒のほかの徴候やすでに精神病を患っていた人でより一般的である。
精神病は急性中毒後に気づかれる。
神経精神検査とEEG の異常は急性被曝後数か月続く(Hazardous Substances Data Bank 2000)。
末梢神経への影響
フェニトロチオンはニワトリで神経毒性エステラーゼ(NET)を阻害しないことが示されている。しかし、坐骨神経伝導が遅くなることと有髄神経線維の破壊がフェニトロチオンを慢性的に投与されたウサギで見られている。
11.2 皮膚(皮膚・粘膜・眼への影響を参照)
発汗は一貫しているが、普遍的徴候ではない。
皮膚感作は起こるだろう。フェニトロチオンは人間とテンジクネズミでアレルギー性接触皮膚炎を起こす。
日本農村医学会の1981 年の調査では、スミチオンが皮膚障害を起こすことが臨床的に知られている。皮膚添付試験でも陽性の反応が得られている(菅谷他1981)。
11.3 肺
フェニトロチオンの汚染物質の1 つ、O,O,S-トリメチルホスホロチオエートは、ラットの肺に明瞭な細胞毒性を持つ。マウスで免疫応答を修飾することが知られている。
フェニトロチオンの肺毒性を、0 または30 mg/kg のフェニトロチオンを気管内に投与した雄のウイスター系ラットで研究した。
動物を処理後0、1、4、7、14、21、30 日後に殺し、肺を取り出し、重量を量り、洗浄した。
洗浄液で、乳酸デヒトロゲナーゼ・蛋白・シアル酸・燐脂質・アスコルビン酸を測った。ミトコンドリア分画を単離し、形成されたマロンジアルデヒドを
量って脂質過酸化の程度を定量した。
洗浄液の乳酸デヒドロゲナーゼ活性はフェニトロチオンにより全時点で増加し、対照値の636%の最大増加が4 日で起こった。
蛋白とシアル酸濃度は全時間で有意に増加した。蛋白濃度の最大増加332%は4 日後に起こった。洗浄液のアスコルビン
酸濃度ははじめの7 日間フェニトロチオンにより減少し、その後増加した。
最大増加124%は14日に起こった。
肺重量はフェニトロチオンにより4 日と14 日に有意に増加した。有意な脂質過酸化は30 日を除く全時間でフェニトロチオンにより有意に増加した。フェニトロチオンに対する急性被ばくはラットで重大な肺の生化学変化を誘導することが、結論である。
時間的な変化パターンは肺組織に対する最初の障害と引き続く防御適応期間を反映するのであろう。