・「出典」APEC 環境技術交流バーチャルセンター
http://www.apec-vc.or.jp/j/
【黄砂】
黄砂
黄砂は、中国大陸内陸部のタクラマカン砂漠、ゴビ砂漠や黄土高原など乾燥地域および半乾燥地域で、風により数千mまで巻き上げられた微細な土壌粒子が偏西風に乗って中国沿岸部、朝鮮半島から日本に飛来し、大気中に浮遊ならびに降下する現象である。
この現象は春季を中心として起きるため、日本では一種の「春霞」とされ、西日本を中心に観測されてきた。
さらに近年、東日本にも飛来するようになり、本州の最北端にまで達している。
この現象は2月から増加し4月にピークをむかえ、日本では近年頻繁に観測されるようになり、観測局108局で年間延べ300日を超えている(日本・環境省資料他)。
中国・北京では月に1km2当り15トン降下するとされ、日本では1年間で1km2当り1-5トン降下すると推測されている。
風によって大気中に巻き上げられた黄砂は発生源周辺の農業生産や生活環境にしばしば重大な影響を与えるばかりでなく、大気中に浮遊し、地球全体の気候に影響を及ぼしている(日本・国立環境研究所資料)。
とりわけ、2000年から3年間は、中央アジアで例のない砂嵐が発生し、それによって生じた黄砂が東アジアに輸送された。
中国・北京や韓国・ソウルでは小学校等の休校措置がとられたこともあり、日本でも大きな影響を及ぼした。また、モンゴルでも重要な課題となっている。
黄砂問題は北東アジア地域の共通した課題ではあるが、発生源からの距離によって、その被害の内容と程度は異なっている。
発生源の近傍では、人の死亡や行方不明、施設や線路の埋没をから始まり、樹木の倒壊、工場製品の不良から、自動車や洗濯物汚れまである。
また、程度に差はあるが、広範囲で農作物の被害、人の呼吸器や眼科の疾患ならびに視界不良による航空機の欠航や交通マヒが起きている。
中国ではすでに紀元前1,150年に黄砂の観察記録がある。
韓国でも紀元174年以来、しばしば黄砂現象と見られる記述がある。
日本でも古くから黄砂に関する記述が見られている。黄砂は従来、黄河流域や砂漠から砂が運ばれてくる自然現象と理解されていたが、近年は過放牧や農地転換による土地の劣化が原因になっているのではないかと言われ、人為的原因が指摘されている。
日本にまで到達する黄砂は粒径4μm付近の粗大粒子域にピークを持つ粒子(中国・北京では4-10μm)で、土壌性粒子の特徴を示している。
黄砂粒子には石英や長石などの造岩鉱物や、雲母やカオリナイトなどの粘土鉱物が多く含まれている。
しかしこれらの成分以外にも自然起源とは考えにくい硫酸イオン、硝酸イオンやアンモニウムイオンも含まれており、黄砂の輸送途中で人為起源の大気汚染物質を取り込んでいるのではないかと考えられている。
目には見えないような細かい黄砂は太平洋を飛び越え米国の西海岸にまで到達していると言われ、その途中の太平洋にも降下している。
黄砂の観察は、粒径10μm以下の浮遊粒子状物質の測定や視程の観察に加えて、近年はライダー(※)が活用されている。
このライダーは、電磁波の代わりにレーザー光を用いたレーダーで、上空を通過する黄砂を地上で計測できる遠隔測定手法である。
黄砂には土壌成分が多く含まれやや塩基性の性質を示す。
そのため、酸性雨の中和作用を果たしている可能性があるし、地球温暖化問題とも関係している。
また、黄砂にはミネラル分が含まれているため、海洋に降下した黄砂は海洋表層のプランクトンへのミネラル供給を果たすことにより、海洋の生態系に大きな影響を与えていると言われている。
現在の地球環境は長い時間かけて形成されたバランスの上に成り立っている。
このことを考慮すれば、黄砂現象は単なる季節的な気象現象から、森林減少、土地の劣化、砂漠化といった人為的影響の環境問題としてとらえるとともに、その修復にあたっては、個別課題に対する対症療法的にではなく、環境全体に配慮した対応が必要となる。
黄砂は国境をまたぐ環境問題であることから、効果的な調査と対策を実施するためには関係各国の協調が必要である。
黄砂の発生をいち早くとらえ、その発達状況や移動状況を把握するために、中国大陸北西部から日本列島にいたる広い範囲で、黄砂観測網の整備が取り組まれている。
日本国内では、黄砂の飛来やその濃度を、コンピューター計算により予測・検証を行う黄砂モデルを作成し、気象庁での予測活動に活用している。
また、中国では劣化した土地の再植林などを通した裸地の減少、防風林帯の形成による風での浸食や砂の移動の緩和、さらには土地の環境容量の改善などに取り組んでいる。
※ライダー(lidar)とはレーザーを光源とするレーダー手法で Light Detection and Ranging を略したものである