平成16年度環境省化学物質過敏症研究報告書6 | 化学物質過敏症 runのブログ

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(3)研究結果
1)A(NAG)群(OVA-)
1-1) 体重、副腎重量、下垂体前葉体積結果をTable 1 のNAG (OVA-)群 に示した。

体重、副腎重量、下垂体前葉体積は、曝露(80、400、2000)群と対照(0)群で差がなかった。
1-2)視床下部室旁核のCRH-ir ニューロン数CRH-ir ニューロン数は、ホルムアルデヒド曝露量依存的に増加していた(Fig. 1)。
1-3)ACTH-ir 細胞の出現率、数ACTH-ir 細胞の出現率(Fig. 2)、数(Fig. 3)は、ホルムアルデヒド曝露量依存的に増加していた。
1-4)半定量的RT-PCR による下垂体内ACTH-mRNA
ACTH-mRNA の発現量ホルムアルデヒド曝露量依存的に増加していた(Fig.4)。
2)B(AG)群(OVA+)
2-1) 体重、副腎重量、下垂体前葉体積80ppb ホルムアルデヒド曝露群の体重は対照群のものより減少し、副腎の相対重量は増加していた。

400ppb と2000ppb の体重と副腎重量は対照群のものと差はなかった。

下垂体前葉の体積は、曝露群と対照群で差がなかった(Table 1 のAG (OVA+)群)。
2-2)視床下部室旁核のCRH-ir ニューロン数
B (AG) 群の対照 (0) 群マウスのCRH-ir ニューロン数は、A (NAG) 群マウス対照 (0) 群のものより有意に増加していた。

80ppb 曝露マウスのCRH-ir ニューロン数は、A (NAG) 群の2000ppb 曝露マウスの値まで増加した。400ppb と2000ppb では減少した(Fig. 1)。
2-3)ACTH-ir 細胞の出現率、数
B (AG) 群の対照 (0) 群マウスのACTH-ir ニューロンの出現率(Fig. 2)と数(Fig. 3)は、A(NAG) 群マウス対照 (0) 群のものより有意に増加していた。80ppb 曝露マウスのACTH-ir ニューロン数は、さらに増加し、A (NAG) 群の2000ppb 曝露マウスの値と差はない。

400ppb と2000ppb では減少した。
2-4)半定量的RT-PCR による下垂体内ACTH-mRNA
B (AG) 群の対照 (0) 群マウスのACTH-mRNA の発現量は、A (NAG) 群マウス対照 (0) 群のものより有意に増加していた。

80ppb 曝露マウスのACTH-mRNA の発現量は、さらに増加し、A(NAG) 群の2000ppb 曝露マウスの値と差はない。

400ppb と2000ppb では減少した(Fig. 4)。
3)C 群(OVA- 、トルエン+)
3-1) 体重、副腎重量、下垂体前葉体積
結果をTable 2 に示した。体重と下垂体前葉体積は、曝露群と対照群で差がなかった。

80ppbと2000ppb 曝露群の副腎重量は、対照群のものより小さく、相対重量では、80ppb 曝露群のものが対照群のものより小さかった。
3-2)視床下部室旁核のCRH-ir ニューロン数
CRH-ir ニューロン数は、ホルムアルデヒド曝露量依存的に増加していた(Fig. 5)。
3-3)ACTH-ir 細胞の出現率、数
ACTH-ir 細胞の出現率(Fig. 6)は、ホルムアルデヒド曝露量依存的に増加していたが、数(Fig.7)では400ppm 群のみが対照群のものに比べて有意的に増加した。
3-4) 下垂体前葉のsinusoid
対照群に比べて400 と2000ppm ホルムアルデヒド曝露群で、sinusoid の有意的な拡張が見られた。

特に、2000ppm 群で著明であった(Fig. 8)。
3-5)半定量的RT-PCR による下垂体内ACTH-mRNAACTH-mRNA の発現量ホルムアルデヒド曝露量依存的に増加していた(Fig. 9)。
4)D 群
4-1) 体重、副腎重量、下垂体前葉体積
結果をTable 3 に示した。NAG(OVA-)マウスの体重は、対照群よりトルエン曝露群で増加した。副腎重量と下垂体前葉の容積は、各群で有意の差はなかった。
4-2)視床下部室旁核のCRH-ir ニューロン数
NAG (OVA-) 対照群のCRH-ir ニューロン数に比べてNAG (OVA-) トルエン曝露群、AG (OVA+) 対照群とAG (OVA+)トルエン曝露群で多い。(OVA-)トルエン曝露群に比べて(OVA+)トルエン曝露群で多い (Fig. 10-A)。

4-3)ACTH-ir 細胞の出現率、数
ACTH-ir 細胞の出現率(Fig. 10-B)と数(Fig. 10-C)は、NAG (OVA-)対照群に比べて(OVA-)トルエン曝露群、AG (OVA+) 対照群とAG (OVA+)トルエン曝露群で多い。

ACTH-ir 細胞の出現率は、(OVA-)トルエン曝露群に比べて(OVA+)トルエン曝露群で多い (Fig. 10-B)。
4-4)半定量的RT-PCR による下垂体内ACTH-mRNA
ACTH-mRNA の発現量は、(OVA-)対照群に比べて(OVA-)トルエン曝露群、AG (OVA+) 対照群と(OVA+)トルエン曝露群で多い。

(OVA-)トルエン曝露群に比べて(OVA+)トルエン曝露群
で多い (Fig. 11)。
(4)考察
A (OVA-)群では、低濃度の長期ホルムアルデヒド曝露により視床下部室旁核のCRH-irニューロン数、ACTH-ir 細胞の出現率と数、下垂体内ACTH-mRNA 発現量は曝露量依存的に増加し、ホルムアルデヒドがストレッサーとして作用していることを示した。

ACTH-ir 細胞の出現率は、短期間のcold ストレスにより増加する14)。

一方、B (OVA+)群の視床下部CRH神経細胞と下垂体のACTH 細胞はA 群のものと異なる反応を示した。

すなわち、B 群のCRH-irニューロン数、ACTH-ir 細胞の出現率と数、下垂体内ACTH-mRNA の発現量はホルムアルデヒド曝露がなくても増加し、80ppbFA 曝露で最高の増加を示した。

このように、アレルギーは、ストレスとしてHPA 軸に働き、ホルムアルデヒドはアレルギーの感受性を高めたと考えられた。

また、B 群での高濃度(2000ppb)ホルムアルデヒド曝露では80ppb 曝露マウスに比べて、CRH-ir ニューロン数、ACTH-ir 細胞の出現率と数、下垂体内ACTH-mRNA の発現量は減少している。

この現象から、B 群ではアレルギーと高濃度ホルムアルデヒド曝露によりHPA 軸が障害を受け、更なるストレス(腹痛、頭痛など)を処理できない状態になっているという仮説が考えられる。

すなわち、MCS の一つであるシックハウス症候群とは、アレルギーとホルム
アルデヒドの2つのストレスが相乗的に作用して、HPA 軸が損傷を受け、更なるストレス(腹痛、頭痛など)に対応できなくなった状態という仮説を立てることができる。
トルエン前処理したC 群のHPA 軸の結果は、A 群の結果と似ている。

即ち、卵白アルブミン前処置により惹起したアレルギー性炎症は、ホルムアルデヒド曝露に対するHPA 軸の反応に影響を与えるが、アレルギー炎症を惹起しないトルエン前処置では影響を与えていないと考えられる。
D 群の結果から、トルエンの低濃度曝露は、A~C 群の実験同様ストレスとしてHPA 軸に作用していると考えられる。
A~D 群の結果より、本実験系はMCS あるいはマウスにおけるシックハウス症候群モデルとして活用できる可能性があることが示唆された。
本報告中のA とB の結果はBrain Res. 15)、C の結果は、J. Vet. Med. Sci. 16)に、また、D の結果はJ. Jpn. Soc. Atmos. Environ. 17)に掲載された。
(5)参考文献,図表省略