・地中に埋められた変電所の恐怖
そもそも、電磁波が人体に及ぼす危険性が社会に広く認識されるようになってから、まだ日が浅い。
もちろん、専門家・研究者の間では1970年代からその危険性は指摘され、さまざまな研究・調査が行われてきた。
が、一般の人々が危険性を認識しだしたのは、ごく最近といってもいいだろう。
「社会に与えたインパクトという意味では、有名な「メドウ通りの災厄」事件が大きかったのではないでしようか」
と語るのは医学博士の中原英臣教授である。
「この事件は、米コネチカット州ギルフォードという町のメドウ通りに住んでいた17歳の少女が、ある日突然、脳腫瘍で倒れたことから始まります。しかし、少女を襲ったこの悲劇も、実はさらなる恐るべき災厄の前触れでしかなかったのです・・・」
中原教授の説明によれば、そのときからメドウ通りに暮らす人々に、次々と悪夢のような事件が降りかかかる。
少女が倒れた翌年、別の女性が脳腫瘍で死亡。
さらに9歳の男の子が脳腫瘍となり、視神経の悪性腫瘍で失明する若い女性もいた。
ひとつの家族に集中して悲劇が見舞ったケースもある。
ウォルストン家では48歳の父親が脳腫瘍にかかる。
祖父も脳腫傷で死んでいる。娘は13歳で膝に腫瘍ができる。
妻は腕や足にはい腫ができ、頬にも腫瘍ができた。
また、脳腫瘍にならないまでも、ほとんどの住民は慢性的な頭痛に悩まされていたという。
「この異常事態に着目したのが、世界で初めてアスベスト公害を告発したことで有名なジャーナリストのポール・ブロダー氏でした。彼はメドウ通りにある変電所と高圧送電線に疑いの目を向けます。ちょうどそれ以前から変電所にかかる電圧が急激に高まっていたのです。ブローダーはメドウ通りの電磁波を測定してみました。その結果、なんと驚くべきことに、そこでは20~100ミりガウスもの強い電磁波が測定されたのです」
ポール・ブローダーは自ら調査した結果を「メドウ通りの災厄」というタイトルの長い記事にまとめ、1990年7月の「ニューヨーカー」誌に発表した。
この記事の反響は凄まじいものがあった。
全米各地で、変電所や送電線の近くで暮らす人々から、科学的な調査を求める声が上がったのだ。
たとえば、カリフォルニア州のモンテンシドユニオン小学校では、なんと普通の学校と比較して子どもたちのガンの発生率が100倍にものぼることが明らかになった。
恐ろしいことに、この小学校は変電所に隣接していたのである。
もちろん、現在では、私たちも変電所や送電線がなんとなく危険そうだということは、ボンヤリとではあるが認識している。
できれば、その近くにはあまり近寄りたくないと思っている。
が、問題はそう簡単ではない、と中原教授は指摘する。