シックハウスを理由とするマンションの売買契約の解除3 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・解説
1 瑕疵担保
 本件は、シックハウスであるということが新築建物の瑕疵と認められた初めての判決である。瑕疵については、当事者の取り決めによる品質を基準とする主観的瑕疵を認めている。

本件契約当時の平成14年は既に行政基準が作られていた時期であり、これを基準とするという手法は注目され、今後同様の事例の先例となろう。

本件のようにパンフレットで、シックハウス対策がうたわれていない場合については、依然として問題が残される。損害賠償については、瑕疵担保に依拠したため、過失を要件とすることなく認められており、管理費や修繕積立金等を信頼利益(注)の損害と認定し賠償を認めている。

このように、瑕疵担保によると、消費者である買い主の保護がかなり図られることになる。

しかし、健康被害による治療費や慰謝料については、信頼利益の損害ではないので、瑕疵担保では認めることはできない。

2 債務不履行
 債務不履行については、いわゆる付随義務違反による健康被害に対する慰謝料が問題になっているが、Xの主張するような注意義務は不法行為では問題になるが、「売買契約の内容」にはなっていないとして斥けている。

付随義務は信義則から導かれるものと考えられており、「売買契約の内容」でなければならないというのは、学説の一般的な理解よりも狭い考えによっているものといえる。

しかし、あえて付随的な注意義務ではなく、「シックハウスでない物件を供給する義務」として給付義務自体に問題の内容を組み込むことも考えられ、債務不履行を否定した点については疑問が残される。

3 不法行為
 不法行為については、民法709条によるため「過失」が要件となる。

安全配慮義務違反の事例であるが、被用者に対する使用者の過失を否定した判例がある(参考判例[1]参照)。

本件では、Yは自ら建物を建設した業者であるが、建材等としてはJASのFc0基準、JISのE0・E1基準の仕様を有するものが建築に際して出荷されており、ホルムアルデヒドの具体的な発生源および発生機序を特定することはできないことから、過失が否定されている。

JASのFc0基準、JISのE0・E1基準の仕様の建材を使用すれば、特別事情がなければ、ホルムアルデヒドの発生について予見可能性が否定されたのである。

しかし、個々の材料は基準を満たしていてもそれらが複合してどう人体に影響を与えるかは分からないのであり、完成した段階でホルムアルデヒドの濃度を測定するといった注意義務を認めることも考えられ、測定をすれば容易にホルムアルデヒドが基準を超えていることは予見可能であったのであり、過失も否定されることはない。

この点で疑問が残る。


参考判例
[1]大阪地方裁判所平成18年5月15日判決、『判例タイムズ』1228号207ページ(社屋を新築し、その新社屋においてホルムアルデヒドにより被用者が化学物質過敏症になったことが認められたが、平成12年当時において、使用者がホルムアルデヒド等の化学物質によるものと認識し、必要な措置を講じることは不可能または著しく困難であったとして、使用者の責任を否定)。
[2]東京高等裁判所平成18年8月31日判決、『消費者法ニュース』71号217ページ(電気ストーブの使用による化学物質過敏症の発症につき、売り主の債務不履行責任を肯定)。


注:信頼利益とは
 損害賠償の対象となる利益についての区別として、有効でない契約を有効であると信頼したために生じた、信頼した者の利益のことを「信頼利益」という。これに対して、契約が有効であり、それが完全に履行されたならば債務者が得たであろう利益のことを「履行利益」という。