・シンポジウム5
アレルギー疾患の発症予防はどこまで可能か
司会者:斎藤博久1), 檜澤伸之2)(国立成育医療センター研究所免疫アレルギー研究部1), 筑波大学大学院人間総合科学研究科呼吸病態医学2))
S5-1.アレルギー疾患の発症予防・総論(食物アレルギー・アトピー性皮膚炎など)
斎藤博久, 松本健治
国立成育医療センター研究所免疫アレルギー研究部
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【疫学調査より】アレルギー疾患患者数は増加を続け,約3割の国民が何らかの治療を必要としている.
花粉症以外の多くのアレルギー疾患は3歳以前に発症するが,発症年齢はさらに低年齢化する傾向にある.
血液中などにアレルゲン特異的IgE抗体が証明された場合,その個体はアトピーあるいはアレルギー体質を獲得したと判断される.
ヨーロッパの農村地域で幼児期まで生育した場合,都市部と比較すると,その後のアレルゲン特異的IgE抗体保有率つまり,アレルギー体質獲得率は5分の1となる.
しかし,アレルギー体質を獲得した成人アレルギー疾患患者に対し免疫寛容を誘導すること,つまり,アレルゲン特異的IgE抗体を消失させることは非常に困難である.
学童期以降に発症する花粉症などに比較し,乳児期早期に発症するアトピー性皮膚炎や食物アレルギーに関しては,より早い段階,つまり,母体を含めた胎児期の環境が重要であるであると想定されている.
我々は2005年の本学会において,授乳中の母親が卵を多く摂取すればするほど卵アレルギーの頻度が少なくなり,牛乳を多く摂取すればするほど牛乳アレルギーの頻度が少なくなることを報告している.
そして,ピーナッツアレルギーの発症予防にピーナッツの経口摂取制限は無効であり,むしろ発症リスクを高める可能性があることも最近報告されている.【免疫学の成果】上記農村地域で出生した児の臍帯血制御性T細胞数は増加していることが報告されている.
胎児期のリンパ節は外来抗原の侵入に対し,長期的な免疫寛容を維持する制御性T細胞が選択的に増殖しやすい環境にある.
また,乳児腸管は,母乳中に含まれるTGFβやビタミンAの影響で制御性T細胞が増殖しやすい環境にある.
一方,アトピー性皮膚炎表皮などのアレルギー炎症組織では抗原提示細胞,TSLP,IL-25,IL-33などの増加により,外来抗原の侵入に対し,TH2細胞が増殖しやすい環境にある.TH2細胞は他のメモリーT細胞と比較すると,形質転換しにくい.
【結論】アレルギー疾患の発症を完全に予防するためには,疾患をひきおこすアレルゲンに対して免疫寛容を得る必要があり,そのためには乳幼児期までにTH2細胞以外のメモリーT細胞を増殖させる必要がある.
第59回日本アレルギー学会秋季学術大会 2009年10月開催