・安定化
最近の研究と展開を考慮すると、金属水銀の安定化は現在、可能であり、立証された技術であることが認識されなくてはならない。
少なくとも、ひとつの全面的な産業用プロセスが現在利用可能であり、それは年間1,000トンまでの金属水銀の固体硫化水銀への転換が、トン当たり 2,700ドル(約21万円)で可能である。
いくつかの会社が同様な技術で稼動しており、代替プロセスもまもなく商業的に利用可能となるかもしれない。
安定化水銀の仮保管と最終処分
安定化水銀は、より安全な方法で取扱い、輸送し、保管することができ、保管と処分のコストの著しい削減を可能とする。
硫化水銀のような安定化水銀の仮保管の特定のコンセプトは、まだ開発されていないが、安定化水銀の保管は、有害化学物質や有害廃棄物の保管のためのよく確立されたやり方に基づくことができると想定できるかもしれない。
それは、環境的に適切に建設され、操業されているなら、特別保管施設又は既存の廃棄物埋立場で実施することができる。
多くの国の廃棄物法によれば、硫化水銀は特別に設計された埋立場で処分することができる。
しかし、表層(酸化)状態(at near surface (oxidizing) conditions) の硫化水銀の長期的な安定性について疑義がある。
もうひとつの側面は、どちらかといえば扱いやすく、長期間、既存の埋立場の土地を使用できる可能性があることである。
したがって、埋立場での処分についてのコンセプトは、更なる調査が必要である。
低水銀濃度含有廃棄物については状況が異なるかもしれない。
廃棄物が地上又は地下で処分できるかどうかを決定するために、ある閾値を決定することができるであろう。
地下保管-岩盤構造物、地下鉱山、及びコンセプト
地下鉱山での永久保管は、有害廃棄物の安全な処分コンセプトであると一般的にみなされている。
アジアでは地下廃棄物保管施設はまだ存在しないが、この地域におけるいくつかの国々では、核廃棄物の地下処分のための調査を行なっている。
地下保管施設を収容するいくつかの典型的な潜在的岩盤構造について本報告書で議論する。
岩塩鉱は岩盤構造物として適切であることが世界的に認められている。
この地域には多くの岩塩床があるが、地下岩塩鉱の数は少ない。
したがって、これらのうちのあるものは、地下保管目的に使用できるのかどうか評価するための更なる検討が必要である。
一方、地下金属鉱山はこの地域にはたくさんある。
それらには鉄はもとより亜鉛、鉛、銅の鉱山がある。例えば、硫化亜鉛は、しばしば高い濃度の硫化水銀を含む重要な鉱石の代表である。
硫化水銀を金属鉱石に戻すことは、さらに調査されるべき重要なアプローチである。
したがって、操業中の金属鉱山の一部を硫化水銀の永久保管に使用することが可能であろうという想定に基づいたコンセプトが開発されている。
それは、コンテナーに収納され、新たに掘られた区画に設置され、その後、密封されることになるであろう。
余剰水銀供給は多年にわたり少量ずつ生じるので(20年間で 7,500トン)、そのような少量を移動させ保管しても鉱山操業にロジスティック上の大きな影響を与えることはない。
技術的な鉱山機器はほとんどの場合、すでに利用可能なので、硫化水銀保管のために追加コストは限定されたものであり、安定化のためのコスト(約 2,3000ドル/トン)に加えて約 750ドル/トン位であろうと見積もられている。もし、既存の坑道が使用できるならコストはもっと低くなる。
地下処分のコストはその場所の状況に非常に依存するので、これらのコスト見積りは参考用だけであると考えるべきである。
さらに、特定のサイトの適切性と長期間の安全性は、全体の地理学的状況、及び過去、現在、将来の採鉱の影響のような追加の要素に強く依存する。
そのような分析は、特定のサイトが選定されてはじめて可能となることであり、それは本プロジェクトの範囲ではない。
少し異なるアプローチをとることで、例えば、地下鉱山の商業的操業寿命の終わりに、それを全面的な地下保管施設に変貌せることになる。
そのような施設は、安定化水銀の処分を可能にするだけでなく、水銀廃棄物、廃棄物焼却残渣、又は化学製品廃棄物のような有害廃棄物の環境的に適切な最終処分のために使用することができるであろう。
そのようなコンセプトの実施が成功すれば、この地域、又は地域内の国々が、多くの廃棄物関連問題を同時に解決する助けになる。
信頼性のあるコスト見積りのためには、サイト特有のデータが必要である。ドイツの経験によれば、地下(岩塩)鉱での地下保管施設における1回の処分費は、場所、廃棄物の種類、量によるが、トン当たり 350~1,200ドルのオーダーである。
倉庫コンセプトの実施は産業的使用のための要地確保に依存し、さらにコストはサイトが異なっても多分ほとんど変わらないかもしれないが、ふたつの地下処分コンセプトに関する完全な実施可能性分析をサイト特有ベースで実施することができる。
もし、ひとつ又は他のコンセプトが更なる検討のために選らばれるなら、ひとつ又はいくつかのサイトが詳細な財政的及び環境的分析が行なわれる前に、サイト選定手順が開発され実施されなくてはならない。
水銀保管と処分のための全てのコンセプトはアジア太平洋地域にとって全く新しいことなので、国家により適切な法律が開発され実施されなくてはならない。