・「吸入薬の正しい使い方も指導され、本当に楽になりました」と話す主婦 横浜市の主婦(56)は2005年8月、風邪で38度台の発熱にうなされた。
地元の病院で処方された飲み薬を服用し、熱は1週間ほどで下がったが、乾いたせきが止まらなくなった。
1か月後に同じ病院を再度受診した。
医師は「気管支炎」と診断、せき止めなどを処方した。
だが、症状はよくならない。
2週間後には「せきぜんそくかもしれない」と説明された。
「せきぜんそく」は、ぜんそくの前段階と位置づけられ、「ゼイゼイ」「ヒュウヒュウ」など、ぜんそくの症状に典型的な呼吸音「喘鳴(ぜんめい)」がなく、せきだけが出るのが特徴だ。
患者の3割がぜんそくに移行する。
治療には気道の炎症を抑えるステロイド(副腎皮質ホルモン)の吸入薬を使う。
主婦は朝と就寝前の1日2回、ステロイドの吸入薬とせき止めを処方されたが、せきはますますひどくなり、同じ年の11月頃には、会話の際に「ヒュウヒュウ」といった喘鳴が出てくるようになった。ぜんそくへと悪化したとみられた。
就寝時も体を横たえると息苦しく、うつぶせになったり、タンスに背中を預けて眠ったりする日々が続いた。
せきが止まらず、そばで寝ている夫も不眠を訴えるようになり、処方された1か月分の薬を半分も使い切らないうちに同じ病院に駆け込んだ。
しかし、症状を訴えても医師は「そうですか」と曖昧に答えるだけ。
薬の種類や量を変更することもなかった。
苦しさに我慢できず、06年1月、知人の紹介で横浜市立みなと赤十字病院を受診。
同病院アレルギーセンター長の中村陽一さんは、症状の程度に比べて、ステロイドの吸入薬の処方量が少なすぎることに驚き、量を2倍に増やした。
主婦はこの時、「薬を吸ったら、息を止めて5秒待つ」ことなど、吸入薬の適正な使い方も初めて指導された。
その後、せきは出なくなったものの、就寝時に息苦しくなることが時々あった。
吸入薬の量をさらに増やすと、呼吸は随分と楽になった。
薬の処方量も減った。
現在は最も多かった時の半分になった。
季節の変わり目などに、息苦しさから発作止めの気管支拡張薬を使うこともあるが、以前とは違い、眠れなくなることはない。
主婦は「薬を使っても少しも良くならず、ずっと不安でした。熟睡できるようになったのがうれしい」と笑顔を見せる。
中村さんは「症状が改善せず、仕方がないと諦めている患者も多いが、原因が不適切な治療であるケースが少なくない。患者に吸入薬の正しい使い方を指導するだけでも、随分と良くなる」と語る。
(2011年11月8日 読売新聞)