・日本を代表する女子トライアスロン選手の庭田清美さん(40)は、2005年頃から夜中や早朝、急にせき込むことが増えた。
レース後には必ずむせてしまう。
しばらくは深呼吸もできないほどだった。
北京五輪(08年)を翌年に控えた07年になると、ランニングでペースを少しでも上げると、息苦しくなった。
当初は体調不良と思っていた。
だが、何日たっても体が思うように動かない。
練習不足のせいとも考え、練習量を増やしてみたが、普段なら苦にもならない速さのランニングでも息が上がった。
五輪大会はそれまで2大会連続で出場してきた。
40歳を間近にして、年齢、体力的な限界など、不振の理由をいくつか探しているうちに、「引退」の二文字が脳裏をよぎった。
悩み続ける中、練習先のオーストラリアで、いつものようにランニングを始めると、1キロもしないうちに息が思うように吸えない感覚に襲われた。
全身がしびれ、酸欠のような苦しさが伴う。歩行もできなくなり、立ち止まった。
「大丈夫か」。
コーチが駆け寄り、声をかけたが、呼吸が落ち着くまで数分間は返事もできなかった。
心配するコーチに促され、現地の診療所を受診した。
医師は、気管支の過敏性などを調べる簡易検査を行い、ぜんそくと診断した。
ぜんそくは、気管支の空気の通り道(気道)が、ダニやホコリ、たばこの煙など様々な刺激で収縮し、激しいせきや呼吸困難が起こる病気。
気道内の慢性的な炎症が原因とされ、治療には、炎症を抑えるステロイド(副腎皮質ホルモン)の吸入薬や、気道を広げて発作を防ぐ気管支拡張薬などを使う。
ぜんそく患者のうち、子ども(16歳未満)の割合は3分の1。
残る3分の2は大人が占める。
大人の患者のうち、子どもの時に発症した人は2割程度に過ぎず、残りの8割は大人になって初めて発症した人だ。
昭和大(東京)呼吸器・アレルギー内科教授の足立満さんは「ぜんそくは子どもの病気と思われがちだが、実際には大人の患者の方が多い」と強調する。
だが、庭田さんはこの時、半信半疑だった。
「子どもの頃にぜんそくだったわけでもなく、信じられませんでした」
北京五輪が半年後に迫っていた。
(2011年11月3日 読売新聞)