報告書に引用されているワルトハイマーらの論文は、79年以降89年までの5件だけであり、それ以降の論文は全く引用すらされていないのである。
また、細胞レベルと疫学との間の橋渡しをしている、いわばメカニズムを考慮した初めての論文として私が評価しているボーマン論文も検討対象から外されている。
95年の論文だが、小児白血病が9.2倍にも増加しているとの内容であり、それも米国・電力研究所の支援を受けた研究なのだ。
そして米国の電力会社従業員14万人を対象とした疫学研究で、脳腫瘍が2.29倍という統計的に有為な増加をしているというサビッツらの論文も95年であることによって除外されている。
その一方で米国・電気学会の論文は96年のものまで含まれているのである。とにかく不思議な報告書である。
また、職業人を対象とした疫学調査も重要であり、94年頃から電力会社の従業員を対象とした信頼度の高い研究も多くなっているのにも関わらず、それらも真剣には検討されてはいないのだ。
職業人を対象とした疫学研究は80件ほどあるのだが、その内の約50件は「影響ありそう」な結果であり、一般人を対象とした研究と合わせて検討されるべきことは言うまでもない。
小委員会の議長はスティーブン教授(カリフォルニア・ホーワン医学研究所)であり、副議長はサビッツ教授(ノースカロライナ大)である。
16人の委員中には、メラトニン研究で有名なライター教授(テキサス大)などのRAPID研究プログラムのメンバーが3人含まれている。
NAS会員は議長を初めとして3人、世界保健機構(WHO)メンバーが2人、放射線防護計測委員会(NCRP)メンバーもいる。
NRCからはスタッフ6人が、BRERからは1人が連絡担当者として参加している。いわば小委員会は上部機関の監視下で報告書をまとめたのではないかと推測するほどだ。
NASなどにはが界の大物(つまり年寄り)研究者が多く、NAS会員数1728人(それ以外に外国会員数299人)でノーベル賞受賞者が129人含まれている。
しかし、いずれも保守的な研究者が多く、今までに発表された声明や報告は議会寄り、政府寄りのものが多いことが知られている。
電磁波関連でも77年にも発表していて、米軍が計画していた大レーダー基地(シーファラー計画)に関して「極低周波電磁波は人体に悪影響を与えない」との内容であった。
2ミリガウス以下に送・配電線を規制するとすれば、2500億ドルが必要になるとの試算や、電磁波低減対策費として電力会社はすでに年間10億ドルもの支出をしているという試算が議会予算局から発表されている(94年)。研究費の低減に悩む研究者から、電磁波問題は大したこともないし、リスクも小さいという不満が出ているのである。