・(4)化学物質過敏症の呼称について
非アレルギー性の過敏状態としてのMCSの発症メカニズムについては多方面から研究が行われており、最近では、中枢神経系の機能的・器質的研究と、心因学説に立脚した研究報告が多数なされているものの、決定的な病態解明には至っていない。
しかしながら、その発症機序の如何に関わらず、環境中の種々の低濃度化学物質に反応し、非アレルギー性の過敏状態の発現により、精神・身体症状を示す患者が存在する可能性は否定できないと考える。
一方、MCSに相当する病態を表す用語としてわが国では「化学物質過敏症」が用いられてきたが、「化学物質過敏症」と診断された症例の中には、中毒やアレルギーといった既存の疾病概念で把握可能な患者が少なからず含まれており、MCSと化学物質過敏症は異なる概念であると考えられる。
そのため、既存の疾病概念で病態の把握が可能な患者に対して、「化学物質過敏症」という診断名を付与する積極的な理由を見いだすことは困難であり、また、化学物質の関与が明確ではないにも関わらず、臨床症状と検査所見の組み合わせのみから「化学物質過敏症」と診断される傾向があることも、本病態について科学的議論を行う際の混乱の一因となっていると考える。
本研究会としては、微量化学物質暴露による非アレルギー性の過敏状態としてのMCSに相当する病態の存在自体を否定するものではないが、「化学物質過敏症」という名称のこれまでの使用実態に鑑みると、非アレルギー性の過敏状態としてのMCSに相当する病態を示す医学用語として、「化学物質過敏症」が必ずしも適当であるとは考えられず、今後、既存の疾病概念で説明可能な病態を除外できるような感度や特異性に優れた臨床検査法及び診断基準が開発され、微量化学物質による非アレルギー性の過敏状態についての研究が進展することを期待したい。