・2.一時的転居対策
シックハウス症候群については以上に述べたように、政府の様々な対策が講じられてきているが、依然として居室に由来する様々な健康障害を患っている人がみられる。
住居における化学物質を原因とするシックハウス症候群患者の中には、自宅に住むことが困難となっている者が存在することなどが指摘され、そうした患者にとって安心して住むことのできる住宅の確保が喫緊の課題となっている。
そこで平成20年3月厚生労働省と国土交通省が共同して、「シックハウス症候群患者の公営住宅確保に係る医学的な知見に関するガイドライン」を出して対応を全国の地方自治体(以下、事業主体という。)に呼び掛けることになった(17) 。
公営住宅は、住宅に困窮する低額所得者に対し、安定した居住の場を提供することを目的としたものであり、本来は健康状態の悪化等を理由とする一時的・緊急的な避難、療養のための施設ではない。
また、公営住宅への入居に際しての優先の判断は公営住宅を管理する地方公共団体に委ねられているが、現状の公営住宅は募集倍率が高く空きが少ないことに加え、高齢者や障害者といった優先して入居させるべき者もいる。
しかしながら、住居における化学物質を原因とするシックハウス症候群患者が現在の居住地から転居することにより、健康上有効な場合があることを考慮し、また公営住宅の適正かつ合理的な管理に支障のない範囲内で、自宅の改築等の一定期間における一時的な居住の場を確保すべきではないかとの意見・要望もあるので、その一方策として、公営住宅の目的外使用等の活用を図ることが考えられる。
その際、具体的な方法を検討するにあたっては、単に住宅の管理上の課題を整理するのみでなく、真に住宅の確保を必要としている患者を確認するため、医学的見地からも知見を整理する必要がある。
本ガイドラインはこうした認識の下、住居における化学物質を原因とするシックハウス症候群患者が健康障害の原因となっている住居に対する対策を行ったり、別の住居を探したりする期間の一時的な住居等として公営住宅を目的外使用させる場合等における医学的見地からの判断材料や留意点を整理し、公営住宅を活用する際の指針として参考となるべき事項について厚生労働省、国土交通省及び一部の事業主体からの意見を踏まえ取りまとめたものである。
本ガイドラインの対象患者は、住居における化学物質を原因として健康障害が発症した者であり、クリーンルーム(環境中に微量に存在する物質を除去した超清潔空間の中で、これらの物質を定量的に患者に負荷することにより様々な検査を行うための施設)又は専門外来を設置している医療機関のシックハウス症候群について知見を有する医師により作成された診断書の記載内容が、以下の要件を満たす者とする。