・化学物質から健康を守るための方策は,問題の発生を未然に「防止」することと,問題が生じた時には速やかに「対処」することです。
いずれの場合も当該化学物質の有害作用(毒性)に関する情報が必要になります。
「心」についても,一つ一つの化学物質について,どの位の量で,「心」のどの側面に対して,どのような影響を及ぼすのかに関する情報(毒性データ)が不可欠です。
人に毒物を与えることは許されませんから,動物実験により「心」に対する毒性データを収集することになります。
動物に「心」があることを疑問視する人がいますが,動物にも動物なりの「心」があり,人の「心」と共通する部分が少なくありません。
動物にも視覚,聴覚等の「感覚」があり,食欲,性欲等の「欲求」もあり,不安や恐怖,攻撃性や子供への愛情等の「感情」,物事を憶える「記憶力」や物事を認識する「認知力」といった「高次機能」もあります。
人と比べて大きく異なるのは,人と同様の「言語」を持たないこと,高度かつ抽象的なあるいは論理的な「思考」ができないことと考えられています。
人と同じ「言語」を持たないために,動物の「心」を理解することが困難なのです。
人間同士の場合でも,言葉によらずともその人の仕草,振る舞い(すなわち行動)から,その人の「心」の様子を察することができます。
同様に動物の行動も,その時の「心」の状態を反映しているので,行動を観察・測定すれば動物の「心」の状態を客観的かつ定量的に知ることができます。
その行動が化学物質を与えることによりどのように変化するかを観察・測定すれば,どの化学物質が,どの位の量で,「心」のどの側面に対して,どのような影響を及ぼすのか,について毒性データを得ることが可能となります。
先述のように「心」には様々な側面があるので,各側面を観察・測定するための異なる方法が必要となります。
複数の行動観察法を組み合わせたものをテストバッテリーと呼びます。しかし,行動観察法も,どの行動観察法を組み合わせたテストバッテリーが良いのかも確立されたものではありません。
新たな行動観察法の開発とより良いテストバッテリーについて研究されています。