・●つながりの中から考えよう
■編集委員・佐藤 弘■
「エルニーニョ現象」「マグロの漁獲制限」「養殖フグのホルマリン騒動」「ブリとハマチの違い」…。
シンポジウム会場で、これらの言葉の認知度を調べる調査をした。
例えば、ブリとハマチの違い。
成長度合いによって呼び方が変わる出世魚の中では有名な方だと思っていたが、「意味を説明できる」と答えた人は5割強だった。
ある人にとっての常識が、別の人には驚きになる。
それがニュースの本質とはいえ、受け取る側の理解度を考えて記事を書かねば、魚の汚染問題1つとっても、「だから海を大事にしよう」と呼びかけたつもりが、「もう魚を食べるのはやめよう」という、逆の反応につながりかねない。
海と魚は危機的だ。資源の枯渇や水温上昇といった地球環境もそうだが、それ以上に問題なのは、私たちとの関係が希薄になっているからだ。
丸のままのリンゴを見て、何か分からなかったお金持ちの子どもが、親がウサギの形に切ったのを見て、「おリンゴちゃんだ」と叫ぶ。
今から数十年前に見たギャグ漫画に、そんなシーンがあった。
しかし、これを魚の切り身に置き換えたらどうなるか。
もう私たちは笑えないところにまで来ているのではないか。
食材について語ることはできる。だが、危険と背中合わせのなかで漁に出る漁師、厳冬期の真夜中に寒風吹く中で大量に水揚げされたサバを選別し続ける人々、早朝から夕方まで立ちずくめで働く魚屋の店員…。
現場のことはどこまで理解できているだろうか。
まず海と魚の現状と課題、役割を知る。
次に、その解決策を海、山、川、生産、流通、消費といった暮らしから考える。そして、台所や農業用水など、私たちがかかわった水が海に流れ、回り回って私たちの口に入ることが想像できるようになったとき、持続可能な社会への道が開けるはずだ。
■シリーズ 食くらし■
会場アンケートには、244人から回答があった。
魚料理は身近に感じても、生産現場の現状をほとんど知らなかったという感想が目立った。生産者と豊かな海を守るため、消費者としてできることを模索する思いも多く寄せられた。
× ×
●規格外の魚や野菜が食料として流通しない現状は、若い世代にも衝撃を与えた。
「日本の食料自給率がとても低いことは学校で教えられたが、規格外の魚を養殖魚のえさにしたり、規格外の野菜を捨てることは教えられなかった。日本人はなんてわがままなんだろう」(福岡県苅田町、大学院生・大内愛子さん・24歳)
「心に残ったキーワードは『もったいない』。規格に合わない魚が処分される事実に驚き、日本人のぜいたくさを情けなく感じた。生産者の努力に少しでも応えられるよう努めたい」(福岡市東区、大学生・池内桃子さん・19歳)
●漁業者らの不安は大きいが、消費者からは行動を見直したいとの声が届いた。
「生産者と消費者の間にものすごく距離があると感じた。温暖化や環境悪化が進み、生産が続けられるか不安だが、何とか後世のために豊饒の海を残さなければと思う」(熊本県津奈木町、養殖業・59歳)
「『日本の食=魚』と感じていたが、漁業の現状は何も知らなかった。スーパーの切り身の方が安心して買える自分に不安を感じた。昔、母が1匹丸ごと買ってさばいていた時代を取り戻せるよう努力したい」(福岡県大野城市、主婦・前崎歩美さん・28歳)
「新鮮な魚しか食べようとしなかったが、食べ方によってもっと多くの魚を食べることができると分かった」(同県小郡市、会社員女性・25歳)
「結婚を機に魚をさばき始めたが、子どもには伝えていなかった…と反省しきり」(同県春日市、主婦・50歳)
「近くに鮮魚店があるので今度話し掛けてみようと思う! いつも興味がない振りをして素通りしていたが、耳寄り情報をゲットしたい」(福岡市東区、大学生・21歳)
「高齢者施設で献立作成、発注をしている。高齢者の方々は魚大好き。『もったいない食堂』のように『非食の魚』など使えたら…と思った」(福岡県久留米市、管理栄養士・29歳)
●「つながり」が持続可能な社会をつくるとの意見もあった。
「(シンポジウムの)切り口は漁業だったが、実は海や山、川、そして生産者、消費者もすべて地球環境問題とつながっていると感じた。一つ一つを切り離さず、関連づけて考える必要がある」(福岡市城南区、主婦・42歳)
「小型、規格外の水産物を外食業者が生産者から入手する取り組みが広がると『日本の食』が変わる。しかし、産業としてつながるには、社会的な仕組みを構築することが必要」(同市東区、近畿大学産業理工学部助教授・日高健さん・49歳)
「知らないことが一番危険。来月、店をオープンする予定。安全な食べ物を作り、いろいろ提唱できればと考えている」(福岡市南区、自営業女性・36歳)
=2007/04/13付 西日本新聞朝刊=